「どう……?……感じる……?」
僕は聡美の耳元でささやきながら、腰を優しく動かした。
もちろん、いつものとおりの正常位だ。
僕はセックスに関して、少し持論を持っている。
セックスというのは、男本位、自分本位ではだめなのだ。
できるだけ丹念に、やさしく、女性が痛がらないように、心をつかい、気をつかうこと。
セックスの快感というのは男と女が共同作業で作り上げていくものでなくてはいけない。
自分本位、男本位ではだめなのだ。
「……気持ちいいかい?……痛くないかい……?」
「……・・」
聡美は答えない。
多分、恥ずかしいのだろう。
聡美はけっこうセックスに関しては控えめな女性だ。
僕がこれまでつきあってきた女性の中でも、淡白なほうだと思う。
というか……多分、聡美はこれまでにそれほど男性経験はなかったんじゃないだろうか。
細身で、小さな身体。
いつもショートカットでジーンズ姿の聡美は、どこか少年のような印象を持ったボーイッシュな少女だった。
今も僕の顔の真下で、その中性的な顔を真っ赤にして、下唇を噛んでいる。
思わず……そりゃ僕も男だから……そんな聡美の様子を見ていると、少しは意地悪な気持ちになってくるときもある。
『……ほら、こんなに締め付けてるよ……そんなにいいんだ……・』とか、
『……いっぱい、いっぱい出てるよ……ほら、繋がってるとろこ、自分で触ってみてごらん』とか、
『……一回、抜いちゃおうか……?……それで、自分の好きな格好になってみなよ……それで突いてあげるから』とか
そういうことをつい口走りそうになってしまう。
いけないいけない。
そういう変態的な言葉は、女性を冷めさせるものだ。
僕は女性心理をかなりよくわかっていると自認している。
とにかく世間の男というものは……普段、どんなに優しい男であろうと、どんなに女性に対して細かい心配りができる男であろうと、つい、セックスのときとなると、上に挙げたような、AV仕込みの猥語を口にしたり、変なことをしたり、女性にへんなことをさせたりしたがることで、女性を幻滅させてしまいがちだ。
僕はそんなことはしない。
僕は聡美とセックスするときは、いつも正常位だ。
バックなんてもっての外だ……あれは、愛し合うふたりにはまったくふさわしくない体位だといっていい。
僕らは人間なんだ。セックスは人間同士がお互いを尊重し合い、高めあうための肉体のコミュニケーションでなくてはならない。
いたずらに男性は、自分の征服欲だけを満たそうとするものではない、というのが僕の考え方だ。
それに、あんな体位で辱められて、女性が心から喜ぶはずがないじゃないか。
だって、お互いの顔が見えないのだ。
猿ならまだしも……獣のように女性を這い蹲らせ、それに後ろから腰を叩きつけるなんて……とても僕には……いや、僕と聡美の間には考えられないことだ。
また僕は、聡美にフェラチオ(まったく下品な言葉でイヤになる)させたり、クンニ(これもなんというか、下品な響きだ)をしたり、なんてこともまったくしない。
本当の愛のあるセックスに、そんな下品な動作は不要だ。
僕はセックスのとき、いつもちゃんと聡美を全裸にする前に、自分もちゃんと全裸になるように心がけている。
いたずらに聡美だけに恥ずかしさを感じさせないようにするためだ。
そして、長いキスをして、かるく、やさしくその小さな乳房を愛撫し、さりげない手つきでその手を下半身へ移動させ……十分に時間をかけて、聡美の入り口をやさしく愛撫する。
挿入するにあたって、聡美が痛みを感じたりしないように、丹念に、しかし的確に聡美の快楽の中枢をやさしくなで上げながら、そこが充分に柔らかく、湿り気を帯びるのを辛抱強くマッサージしていく。
そうしながら、ずっと聡美の顔を見つめ、耳元で『愛しているよ』『かわいいね』とささやき続ける。
間違っても、
『……大洪水だよ……』とか
『……太ももまで垂れそうじゃないか』とか
『おいおい、指入れただけでどんだけ締め付けてんだよ』とか
そういうことを言ってはいけない。
また、聡美が快感にそのボーイッシュな貌を歪めるのを見ていると、思わずサディスティックな気分が盛り上がってきて、わざと指を見当はずれなところにずらして、
『……ほら、ほんとに触ってほしいのはどこか、ちゃんと言ってごらん』
とか、そういうことを言ってはいけない。
そういうのは、AVの世界なのだ。つまりは、フィクションの世界だ。
聡美の入り口が十分に潤い、やわらかくなったところで、やさしく挿入だ。
『いくよ……』
聡美の目をしっかりと見つめながら、彼女がコクンと頷くのを合図に、ゆっくり、ゆっくりと挿入していく。
後は……今も現にしてるように、やさしく、ゆっくりと……自分の限界が来るまで、腰を動かすだけの話だ。
「……どうだい、聡美……気持ちいいかい?」
僕は聡美の耳元でささやくと、つつくようにその可愛い耳たぶにキスをした。
「んっ……」
聡美がぴくん、と反応する。
「……・痛くない……・もっと、やさしくしたほうがいい?」
「……・」
聡美は答えない。ただ、僕から顔を背けて、小さく頭を左右に振るだけだ。
ああ、聡美、なんていじらしいんだ。
これほど聡美のことがいとおしくなる瞬間もない。
そろそろ僕も……あと数十秒で、限界を迎えそうだった。
きっと聡美も……いつもどおりのこのセックスに、満足してくれたことだろう。
「……・・そろそろ……・いくよ?」僕は少しだけ、腰の動きを早めた「……いいかい?」
「……・おまえ、バカかよ」聡美が、小さな声でつぶやいた。
「え?」思わず僕は、腰の動きを止めた。多分、聞き違いだろう。そうに違いない「……なんか、言った?」
「……・お前、バカかよ、って言ったんだよ!!!」
「ええええ?」
「……あたしの上からどきやがれ!!!」
いきなり、聡美が僕の胸を両手でどん、と突いた。
その力は思っていたよりもずっと強く、僕はのけぞってしまった。
間髪いれず、聡美が足で僕の腹を強く蹴った。
「うっ」
ぬるり、と僕のペニスが聡美の性器から抜けて、僕はベッドから転がり落ちそうになった。
「……・なんなんだよ!!いつも言おうと思ってたけど、何なんだよてめえのセックスはよ!!!」
さらに、聡美のけりが僕のわき腹にヒットした。
あわてて肘でガードしようと思ったが、すでに聡美はベッドの上に仁王立ちになって、ベッドの上に横倒しになった僕を踏みつけるように、キックの嵐を降らせてくる。
僕は何がなんやらわからずに、自分の頭をかばってまるで胎児のようにベッドの上で丸くなった。
「なに?なに?なに?……・なに???」
「なに、じゃねえよ!!!てめえ、そんなセックスで、てめえ自身は楽しいのかよ!!!毎回毎回、おんなじことばっかしやがってよ!!!」聡美はなおも僕を踏みつけるようにして蹴りを入れてくる。「『やさしい男』ってのはそれでいいけどよ……・セックスのときくらい、てめえ、我を忘れてむしゃぶりつこう、って気になんねえの???今日までずっと我慢してたけど、てめえの芸のねえ、退屈なセックスにはもうウンザリだよ!!!……毎回毎回、正常位ばっかで、フェラもさせねーしクンニもなし。それで、あたしがマジで喜んでると思ってんのかよ!!!!」
「だ、だ、だ、だって……」
「『だって』じゃねーーーーーっての!!それでもてめえ、男かよ!キンタマちゃんとついてんのかよ!!!!」
「あっ!!……ちょ、ちょ、ちょっと……」
いきなり聡美が僕に飛びかかってきた。
まるで猫のような敏捷さだったが、力はゴリラのように強かった。
そして、虎のように獰猛だった。
聡美は僕の腹の上に馬乗りになると、ぎらぎらと光る充血した目で僕を見下ろしている。
彼女の荒い鼻息が、胸元にかかるのがわかった。
言うまでもないが、さっきまで僕の身体の下で赤らめた顔を背け、下唇を噛んでいた聡美は、あのボーイッシュで華奢で可愛い聡美は、もうどこかに行ってしまっていた。
「ほら、これからてめえにあたしが、本物のセックスって奴を教えてやるよ!!!じたばたすんじゃねえ!!」
「ひいっ……」
あっという間に僕は仰向けに倒され、先ほど脱ぎ捨てたTシャツで両手首を、万歳の格好で固定されてしまった。
ほとんど抵抗する間もなかった……というとウソになるかもしれない。
その直後、僕の頭には目隠しとして聡美のブラジャーが結わえつけられた。
「ああんっ……」
大いなるショックを受けながら、僕は、”え、そこまでしちゃうんだ“という新鮮な驚きに、ゾクゾクするような感覚を……つまり、認めたくはないけれども……『期待』を抱いていたような気がする。
塞がれた視界のせいで、僕の全身の感覚は鋭敏になtっていた。
全身に聡美の亢奮と、粘度の高い視線を感じて…僕はシーツの上で逃げ場を求めるように身をくねらせ、よじった。
まるで全身の皮をむかれて筋肉をむき出しにされたかのように、聡美の欲情と視線が痛いほど僕を責め立ててくる。
「……あれあれ?どーなってんだよ?てめえ、いったいどういうつもりだよ?…だんだんチンコ、元気になってきやがったんだけどお?」
えっ……、そんな……んっあっ…い、いやっ…」
突然、僕の性器が聡美の湿った、熱っぽい手のひらで握り締められた。
「なんだあ?…てめえ、縛られて、目隠しされて、それでコーフンしてんのかよ?ええ?どうなんだよ?この変態!」
「あんっ…うっ…うううっ…はんっ…」
聡美が僕の性器を激しく、荒々しく上下に扱きはじめた。
その手が上下するたびに、まるで鞭打たれるかのような激しい感覚が僕の下半身を襲う。
「…何、女みたいな声上げてよがってんだよ!!…あれあれ、扱いてやりゃあやるほど、先っぽjから恥ずかしい汁がどんどん溢れてきやがるぜ!……いいのか?ええ?いいのかって聞いてんだよこの変態!マゾ!オカマ野郎!!」
「……うっ……いやっ……だ、だめ……そ、そんなにしたら……」
「こんなにチンコがちかちにしといて何言ってんだあ……?…ほれ、ほれ、こうしたらどうなんだ?」
聡美が世紀を扱くのをやめ、いわゆるその……カリの周辺を指でぐいっと締め付けると、その……亀頭の先端に手のひらを当て……えーっと……カウパー氏腺液を全体に塗り広げるようにして転がしはじめた。
実際のところ、目隠しをされていたので、どんな風にされていたのかはわからない。
しかしそれは……僕にとって未体験の感覚だった。
「はあんっ……いやあっ………それ、そこ、そんな……あああああんっっ!!」
「おっと!……簡単にイカせてもらおうなんて甘いんだよ!……ほれ、こうしたらどうなるんだあ?」
「そ、そんな……もっと……もっと……もっと触って……イかせてえっっ!」
思い出しただけで死にたくなるくらい恥ずかしい言葉と嬌声を吐き散らしながら……僕はその後数時間にわたって、焦らされ、辱められ、打ちのめされ、何度も昇りつめてははぐらかされ、嘲笑われ、許しを請い続けた。
目隠しを外されたときには、空が白んでいた。
抜け殻のようになってベッドに大の字で横たわる僕の隣に、聡美の小さな尻があった。
彼女は僕に背を向けて座っていた。
彼女の肩が、かすかに震えていた。
その小さな背中に声を掛けようとすると……もう僕の声は完全にしわがれていた。
「……こんなのじゃ、イヤでしょ?」聡美が背を向けたまま言った。
「………毎回、こんなのは……困るな」僕はしわがれた声で答えた
「……毎回じゃなければ……いいの?」聡美が肩越しに、僕の顔を見下ろす。
「……5回に……1回くらいなら………」僕はそう言って、なんとか笑みを作った。
「ほんと?」聡美の顔に、小さな花のような笑顔が咲いた「……嘘じゃない?」
「ほんとだよ……嘘じゃない」ほんとうに、嘘じゃないのだろうか?「……いや……」
「……な、何?」聡美が、心配そうな表情で聞く。
「5回に……2回にしよう」真心から出た言葉だった。
聡美の顔に、笑顔が戻ってきた。
そして子供みたいに笑うと、僕の耳元に駆け寄ってきて囁いた。
「……変態」
【完】