「それからね、あたしに布団を敷かせてな、目の前で服脱げ、いうんやんか……それで……」
退屈な告白の続きを言葉にしようと、彼女が薄く口を開けたその瞬間でした。
わたしは、10歳のわたしは、まるでインパラに食いつくライオンのように、鼠に飛び掛る猫のように、クソにたかる蝿のように、彼女の薄く開いた唇に吸い付きました。
「………!?」
水井さんが目を白黒させています。
わたしは何も考えませんでした。薄い唇の間に自分の舌をこじいれ、彼女の後頭部に腕を回すと、へし折らんばかりに頭を固定。夢中になって彼女の舌を自分の舌先で捜し求めます。
「んっ!……んんっ………」
水井さんのしなやかな躰がわたしの腕の中でくねり、もがきます。
腕の中、というのはちょっと正確な表現ではないかも知れません。
といいますのも当時、水井さんはわたしより上背があり、痩せっぽちではありましたがわたしなどよりはずっと体力があった筈ですので、どちらかというとその時のわたしの姿は、たちの悪い子鬼のような妖怪が彼女に飛びついているような様子だったことでしょう。
「んんっ…………んんっ……んっ!!」
わたしは舌先で彼女の舌を見つけ出し、“たばたせんせい”で散々鍛えた巧みな舌技で彼女の舌を絡めとりました。
しょせんは小娘。
たやすいものです。
「んんーーーーーーっ!!!」
水井さんの手がわたしのシャツの肩を引きちぎらんばかりに強く握ります。
わたしはわざと、彼女の口内から唾液を吸い上げました。
ズズーーー……。
水井さんが目を丸く見開くのを、薄目で確認します。
そしてすかさず、自らの口内で自らのものとほどよくカクテルした水井さんの唾液を、逆流させるように彼女の口内に注ぎ込みました。
「むっ!……………んっ………ふっ………んんんっ!」
また彼女が目を見開きます。
うろたえていたのでしょう。
彼女のうろたえぶりを感じることで、当時のわたしの胸には言いようのない優越感が広がっていきました。
義理の親父にいやらしい事をされた?
それが何だ?
お前はこんな舌と舌のやりとりを知ってるのかこの小便臭いガキめ。
ほら、気持ちいいだろう?
と、水井さんが馬鹿力を発揮してわたしの体を引き離しました。
「……ぷはっ……やめて!」
一旦は彼女の躰から引き離されたわたしでしたが、諦めはしません。涙に濡れ、狼狽に歪んだ水井さんの顔を見ると、これまで感じたことのないような攻撃性が自分の中で亢まっていくのがわかります。
はっきり言ってこんな攻撃性はこれまで感じたことがありません。
どれほど同級生の男子児童たちにからかわれようと、理由のないいやがらせやいじめを受けようと、まったく平静を乱されることのなかった当時のわたしの胸は、鼓動の亢まりとともに、冬の日本海もかくやと思われるほど大荒れに荒れていました。
「いや!……やめて!……っちゅーか……やめーさ!!!」
もがく水井さんの躰に、またも自分の両腕を巻きつけます。
さて……。
その先をどうしたものか?
今となってはこういう局面に立てば、少なくとも頭の中のスクリーンに8つほどの行為の選択肢が分枝として表れ、そのひとつを選ぶか、もしくはそのうちの2~3個をいかにミックスして女を攻め立てるか、立ち食いそば屋で何を食べるか、そばのトッピングは何にするか選ぶくらいの余裕を持って考えることができるわたしではありますが、なにせ当時はまだ10歳です。
とにかく、実体験がないのだからここは本能にたよるしかない。
わたしは水井さんの唇に再び吸い付くような姿勢を見せて、彼女にフェイントを掛けました。
と、彼女が二度も不意打ちを食らうまい、と顔を背けます。チャンスです。
わたしが狙っていたのは、顔を背けたことでむき出しになっていた水井さんの首筋だったのです。
「……あっ!……んっ……ちょ、ちょっと………や、や、やめ……」
首筋に吸い付き、舌を這わせました。
まさに感覚と本能の赴くままに。
ぴくり、ぴくり、と水井さんの伸びやかな躯がわたしの舌の動きに合わせて明らかな反応を見せます。わたしはなんとも言えない満足感を感じました。
ちなみに、このキスをすると見せかけての首筋へのフェイント攻撃は、一人前のすけこましとなった今でもわたしの得意技です。
しかしまあ、一体どこでわたしはあのような行動を学んだのでしょうか?
事実、”たばたせんせい”との濃厚なキス修練以外に、性体験や性知識は皆無に等しい状態でしたし、当時は今のようにパソコンを開けばポルノコンテンツが手に入ったわけではありません。
でも、わたしは、なんとなーく、女性というものは首筋を責められるのが弱い、ということを直感で掴んでいた。
これはもう、一種の霊感に近いものであると言わざるを得ません。
わたしはそうした霊感に従って、水井さんへの攻めを続けました。
さらに彼女の躯に手足を強く巻き付けます。
両腕は彼女の二の腕をそれぞれ固定すると、背中で自分の左手と右手をガッチリとドッキング。
両太ももで彼女の左太ももを挟み、万力のようにギリギリと締め上げます。
激しく硬直していた肉棒が彼女の跳ね返すように堅い弾力を持った太ももに擦れ、とても気持ち良かったのを覚えています。
「あっ!…………い、いやあ……」
彼女はわたしから受ける首筋への攻めを躯をよじることで交しながら、腰を振ってわたしの太ももの間から自分の脚を逃がそうとしていました。
複雑な事情の家庭でそれなりの体験を積んでいた(であろう)彼女のことです。
恐らく、ズボンの下からとは言え、わたくしの肉棒の剛直が、自らのむき出しの太ももに触れていること、そしてそれが彼女に対するわたしの、どんな感情を意味しているかは……充分に理解できたことでしょう。
「ひっ!……ちょ、ちょっと!」
わたしは彼女のブラウスの胸元のボタンを強引に前歯で食いちぎりました。
いや、ものすごい大胆さだったと、我ながら呆れ返ってしまいます。
■つづく■
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