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SOD CAFE
“LOVE”や“FREEDOM”で世界は変わらないので、SOD CAFEへ(嘲)
 三年前と全く変わらないアパートの汚いドアをノックしますと、三年前と全く変わらない化粧っ気のない秋子の顔が、ドアのすき間からのぞきました。
 相変わらず、チェーンもせずに不用心にドアを開けたようです。
 まったく、この女がバカだということはイヤというくらい知っていますが、ここまで学習能力がないとは。
 呆れるを通り越して、思わず笑ってしまいました。
 
 「……あ……」秋子が、ぽかん、と口を開けます「……あんた……」
 「……よお、ひさしぶり」
 
 わたしはあまり好きでもないたばこを口の端に垂らして、秋子に微笑み掛けます。

 微笑みかける、というのは少し違いますね。

 ニタリ、と笑いながら出来るだけ下卑た感じを込めて、視線で秋子の顔面をねぶり回すのです。
 
 「………な、な、なに?なにしに来たのよ?」
 
 秋子は相当慌てている様子でした。

 わたしが何をしに来たのかはだいたい想像がついているのでしょう。
 彼女の雌としての動物的感覚が察知しているはずです。
 頭はとても悪いのに、そういう原始的感覚だけは非常にするどい女でした。
 
 そんなところも、わたしが秋子を愛する理由の一つです。
 
 「なにするも何も、そんなヒトをドロボウか強盗みたいに言わなくていいじゃねーの……え?……いやさ、たまたま近くに寄ったもんでさ、久しぶりにおめえのかわいい顔が見たくなったのよ。元気?ええ?ちょっと痩せたんじゃねーの?ちゃんと食ってるかあ?」
 
 そう言いながらわたしはできるだけ粘っこい視線で、ドアのすき間からのぞく秋子の全身をねぶり回し続けました。
 秋子はかなり洗い古したぴったりしたジーンズに、Tシャツというラフなスタイルです。

 ちなみに、“痩せたんじゃねーのかあ?”とわたしが言ったのは単なるお世辞です。

 女性はそう言われると誰でも喜ぶでしょう?

 実際の秋子は三年間とまったく変わらず、たいへん肉付きのよい、ジューシイな体形をしておりました。

 決してデブというほどではありませんが、二つの胸はしっかりと前へ、しかも相変わらず少し上を向いて張り出し、自己主張を続けています。
 白い二の腕は、思わずかぶりつきたくなるほどです。
 きゅっと絞まった腰から、尻に掛けてのカーブは、いつもわたしの正気を失わせます。

 今すぐにでもこのまま玄関先に押し倒してジーンズをはぎ取り、バックから攻め倒してやりたくなりました。

 そういうわたし中で芽吹いた淫らな欲望の遠雷を、秋子はまた感じ取ったのでしょう。

 両手でTシャツの胸を抱え込むようにしてわたしの視線から隠すと、もともと人懐っこい造りの顔を無理して歪め、わたしを睨みつけてきました。
 
 「帰ってよ!!」秋子がいきなり怒鳴りました「あんたの顔なんて見たくもないわよ!」
 
 出ましたね。

 こういうシーンでのお決まりのセリフです。

 わたしはこういう秋子の反応を見るたびにとても興奮させられるのです。
 恐らく秋子の方も、口ではそんなふうに言いながらも躯のほうは興奮しているのでしょう。
 
 目を見ればわかります。


「やけにつれないじゃねえの……なんだ?え?いい男でも出来たわけ?」
 「あんたに関係ないでしょ!!もう、二度と顔を見せないでよ!!二度とあたしの前に顔を見せないで!」
 
 秋子が部屋のドアを閉めようとします。
 まあお約束ですね。
 わたしはドアのすき間に自分の靴先をこじ入れました。
 
 ガツン。
 
 「あっ!!」
 
 スチール制のドアに、もろに挟まったわたしのプレーントゥを見下ろして、秋子が目を見開きました。

 そして、わたしの顔を見上げます。
 恐らくわたしが足を怪我したとでも思ったのでしょう。
  
 「おいて!いて!いててててててっ!」

 わたしは大袈裟に騒ぎます。
 実は屁とも感じてませんでしたが。
 
 「……だ、だ、大丈夫?」と、秋子が慌てて自分で閉めたドアを開けます。
  
 その瞬間でした。
 
 「うっそぴょ~ん

 わたしは開いたドアのすき間に向かって突進し、自分の体を部屋の中に滑り込ませると、秋子の胸を突き飛ばした上、後ろ手にドアをガチャンと閉めたのです。
 わずか2秒半の仕事でした。
 
 突き飛ばされた秋子が、散らかったダイニングキッチンの上で尻餅をついた姿勢で、目を丸くしています。
 
 「……おめー、ホンっっっとうにバカだな。ぜんぜん変わってーな。三年前と全く、まったく、まあーーーーったく同じ手に引っ掛かってんじゃねーか。学習能力ないわけ?」

 わたしは勝ち誇って言葉を続けながら、土間に自分の安全靴を脱ぎ散らかしました。

 「……だーかーらー、俺の靴の先には鉄板が入ってるんだって。三年前もそう説明したろーが?同じ手で、おめえに一杯食わせたじゃねーの。マジ忘れたの?」
 
 「……こ、こ、来ないで」秋子がじりじりと床に尻を擦らせて後じさりまします。「そ、そ、それ以上近づいたら……それ以上近づいたら………」
 
 わたくしのように、ほとんど物心がついた時からこういうことを繰り返して、もう40代に迫ろうというようなわたしですが、この瞬間はやはり、はじめてセックスを体験する青少年なみに新鮮な感動を覚えます。
 
 口ではわたしを拒絶し、嫌悪し、排除しようとしていた女が、このように恐怖と、危機感と、その中にほんの少しブレンドされた肉欲へかすかな期待を滲ませた眼差しで、わたしを見上げるこの瞬間。
 
 「近づいたら、どうするっつんだよ」わたしは言いながら、自分のネクタイを片手で緩めました。「……おめーは……頭の学習能力はサル以下だけど、カラダの学習能力がずばぬけて高いとこが好きなとこだよ。さーて……ゆっくり復習するとすっかなあ?……ほれ、奥の部屋の敷きっぱなしの万年布団の上でよお??」
 
 流れるようにこういう台詞が出てくるところに、自分でも呆れてしまいます。
 
 「……い、いや………こ、こないで………」
 
 蚊の鳴くような声で秋子が言いました。
 
 ああ、ほんとうに俺は女を食い物にするこの生き方を選んで良かったなあ。
 ほんとうに俺って、女を骨までしゃぶり倒す才能に満ち溢れているなあ。
 
 毎度のことながら……改めてその実感を噛みしめました。


<NEXT>














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