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SOD CAFE
“LOVE”や“FREEDOM”で世界は変わらないので、SOD CAFEへ(嘲)
 「……自分のしたことをわかってるね」

 わたしはできるだけ声のトーンを抑えて、ゆっくり、どんなバカにも理解できるように、丁寧に話しかけた。
 しかし目の前の女子高生は、一向にふてくされた様子を崩さない。

 倉庫兼事務所の小部屋の中は、彼女の香りで満ちていた。
 シャンプーの残り香と、少しの汗と、新陳代謝の香りだ。少し、桃の香りに似ている。


 ピポパポン、ピポパポン。


 店のほうから客が入ってくる音がした。
 レジを任せている赤尾くん、大丈夫だろうか。マジメでいい子なのはわかっているのだが、どうもトロいところがある。
 レジに立たせてもう一ヶ月になるが……どことなく頼りない。
 なんか、少しオタクっぽいし。


 「ほら、君が盗ったのはこれだけ?…何これ?この季節にカイロなんか盗んでどーすんの?……あと……なんだこりゃ。『ミナミの帝王』って。こんなの読みたいの?」
 「………はぁい」


 まるで欠伸でもするような返事が返ってきた。
 見たところ、16、7というところか。
 肩くらいまで伸ばした髪を左右に結わえて、その毛先をやたら気にしている。
 脚を大きく組んでいるので、短いスカートから太腿の大部分が露になっている。
 黒いハイソックスに包まれた足の先で、踵を踏み潰した傷の目立つ茶色のローファーがぶらぶらと揺れていた。


 「……なんでこんなの盗んだわけ?……お小遣いで買えないわけじゃないでしょう。……ってかこんなの、別に本気で欲しかったわけじゃなかったんでしょ?……遊び半分で、万引きしたんじゃないの?」
 「……うん?……うぅん?」

 
 なんとも取れない、なんとも解釈しようのない返事だった。
 
 一向に、反省の色というものが見られない。微塵も、垣間見ることができない。

 
 コンビニの雇われ店長になって5年。これまでに何人もの万引き犯を捕まえてきた。
 その中には、彼女のような女子高生もいた。
 老人もいれば、主婦もいたし、会社員もいた。
 セクシーで魅力的な人妻もいた。

 一体全体、世の中どうなってるんだ。
 うちの店で万引きすれば、人生の経験値が上がるとでも思ってやがるのか。


 「……“うぅん”じゃないよ君。これね、判ってると思うけど、犯罪なんだからね。今すぐ警察に連絡してもいいんだよ?……ってか、君は未成年だから、まずご両親に連絡しなきゃだめだな……はい、ここに紙とペンがあるからここに名前を……」
 「アレ、しないんっすかあ?」

 不意に、女子高生が口を効いた。
 見ると、下からなめつけるような目付きは完全にわたしのことを嘲笑っているし、ぽかんと開いたままの口からは、少しめくれ上がった状態の舌が覗いている。


 「……アレ?……アレって何?」
 「……ほら、アレ。なんか~“他になにか盗んでないか調べるから、目の前で着てるものを全部脱ぎなさい。ヒッヒッヒ”みたいな~」
 「な、なにを言っとるんだ君は!」

 思わず、大きな声が出てしまった。

 「……こわいっす~」まだ、彼女は笑っている。


 ピポパポン、ピポパポン。

 また客だ。


 「……え、脱がなくていいんっすかあ?……」
 「……だ、誰がそんなこと言ってるんだ!……もう判った。君には反省の色がぜんぜん見られない。さっそくご両親に来てもらうから、さっさとここに名前と住所と電話番号を書きなさい!!」
 「え、でもソレやっちゃったら~……」彼女が、事務椅子の上で、ぐい、と反り返って伸びをする。ブラウスの隙間から、縦型のへそが見えた「……“親に連絡されたくなかったら、おれの言うことを聞きなさい。ヒッヒッヒ”っての、できなくなっちゃうけど~」
 「……き、君は自分の立場をわかっとるのか?」


 小娘相手に、キレてしまった。
 気がつくとわたしは、椅子から立ち上がっていた。
 いや、誰だってキレるだろう。あなただったらどうする?


 「……え~……わかってるから言ってるんですけど~……これでも一応、ハンセーっての?セーイっての、そ~いうの見せてるつもりなんですけど~……」
 「反省とか誠意とか、意味をわかって言ってるのか君は」
 「……そんなにあたしの親に連絡したいんですか~?なんでそんなに親に連絡したいんですか~?……でも、にそうしたとして、どうなるってんですか~?」
 「もう知らん。もう怒った。親はいい。警察に連絡する。警察に引き渡して、そっちからご両親に連絡してもらうから。そこで思いっきり反省しなさい。もう知りません

 
 「え~……」足先で剥げたローファーが揺れる「……反省しなさいって~……あたしが反省したからって、店長さん、なんかいいことあるんですかあ~?……ケーサツで~……あたしが親に怒られて~……そこで~店長さんが知らないところで~……泣いて謝ったりしてるところとかを~ソーゾーしたりすると~……店長さんそれで満足なんですか~……?……そういうのが、コーフンするんですかあ~?……それって、マジ変態じゃないですかあ~?……それより~……ここで~……“親にも警察にも言わないから、僕の言うとおりにしなさい”ってしたほうが~……フツーじゃないですかあ~?」
 

 「君はおかしい」わたしは言った「何なんだ。おかしいのは君で、僕はまともだ。何か?……君は、基本的に男というものは誰も、こういう状況になれば、無条件でその立場をいいことに、君の身体を弄びたがるもんだ、と、そんな風に考えてるのか。見くびらないでほしいな。僕は、そういう男じゃない」
 「え~……なんか“カラダをモテアソぶ”って~……超エロいんですけど~」
 「エロくない!……君はおかしいぞ。そりゃあ世間には、そういう事をするけしからんことを企む輩もいるかも知れない。でも、ほとんどの男はそんなに悪い人間じゃない。頭でそういうことを企むけれども、実際の行動に移すことはない。ほとんどの男にはほとんどの人間には、理性ってものが備わってるんだ。そこが獣と人間の違うところだ」
 「え~なんかむつかしくてわかんないけど~……それってつまり、ケッカが怖いからしない、ってだけのハナシでしょ~……リセーとか、あんまりカンケーないっしょ~?」


 「なんで?なんでわからないんだ?」わたしの声はもはや、半泣きになっていた。
 「え~だって~………この前~……」女子高生はわたしの顔をちらりと見上げると、にたり、と笑ってから言葉を続けた「……地下鉄で~……こども料金で電車に乗ってたら~……改札で~……駅員さんにバレちゃって~………」
 「ほう?」


 なぜかわたしは、また椅子に座りなおした


 「……超怒られて~……なんか~駅員さんの~休憩室っての?仮眠室っての~?そーいうとこに連れ込まれちゃって~……トーゼン、その駅員さんと二人っきりでさ~……なんかミョーなフンイキになっちゃったわけですよ~……そしたら~その駅員さんが~……言うわけですよ~……『反省してんだったらそれを態度で示してもらわないと』って~……」
 「……マジかねそれは。なんかウソっぽいが」
 「え~……店長さん、続き聞きたかったりするんですか~?」


 ピポパポン、ピポパポン。


 女子高生が、身を乗り出してくる。気付けばわたしも身を乗り出していた。
 舌を伸ばせば届きそうな距離に、彼女の顔があった。


 「……それで~……『え~……態度で示すってどういうことですか~』って駅員さんに聞いたんですよ~……そしたら~……『態度で示すってのはこういう事でしょう』って~……スカートの中に~……手え突っ込んできて~………あ、まだ続き、聞きたいっすっか~?」
 「……話してごらんなさい」
 「店長エロいっすね~……それで~……なんか仮眠ベッドみたいなのに押し倒されて~……いきなりキスしてきたんすよね~……ベロin the マウスで~……」
 「ベロ、イン、ザ、マウス」わたしはオウムのように繰り返した。
 「……それで~おっぱいとか~メチャクチャに揉まれるわけっすよ~……あたし、ちょっと胸大きいじゃないっすか~」
 「うむ」確かに。
 「……で、左手におっぱい、右手in the スカートで~……パンツとか~……マジ脱がそうとしてくんですよ~……で~結局~……パンツ伸びるくらい引っ張られちゃって~……破られると超困るから~……そのままズルっ、みたいな感じで~……」
 「……脱がされちゃったわけだね」
 「続き聞きたいっすか~?」


 ピポパポン、ピポパポン。


 「……聞かせてもらえるかな」
 「……やっぱ店長、超エロいじゃないっすかあ~……で~……話したら警察とか親とか、そういうのナシにしてもらえますか~?」
 「……いや、それとこれとは……」
 「じゃあ話さないっす~」


 ひらり、と身を翻すように彼女はわたしから離れていった。
 そしてまた、事務椅子の背もたれで大きく伸びをする。
 また、ちらりと、へそが見えた。
 

 「……じゃあとりあえず、警察はなし。それでどうかね?」
 「……え~……」彼女はちょっとふくれっ面を作って、ちらりとわたしを見た「ま~……それから~……パンツ脱がされちゃて~……そのままスカートも脱がされちゃって~……下半身、パンゼロにされちゃったわけっすよ~……それで~……膝小僧をガシ、みたいにワシヅカミされて~……そのままガバ、みたいにM字系にされちゃったわけですよね~……そこで~………駅員さんが~……脚の間に~…………まだ聞きたいっすかあ~……?」
 「……よし、学校には連絡しない。それでどうかね?」
 「え~……ガッコなんて~……最初はハナシに出てなかったじゃないっすか~……ま、い~けどね~……それで~……駅員さんが~……脚の間に顔突っ込んできて~……舌で~……アソコ関係を~……」
 「『アソコ関係』ってどこのことなのかちゃんと言い…」
 「まんこっすよ~……まんこ、っていうかクリ集中攻撃?~みたいな~……」
 「……そ、それで君は……か、か……感じ……ちゃったり……しちゃったのかね?」
 「……え~……店長マジ、エロいんですけど~……え、どうだったか答えたらあ~……親に連絡しないっすか~……?」
 
 
  ピポパポン、ピポパポン。


 続いて、ゴクリ、という大きな音がして驚いた。
 なんとそれは、自分が唾を飲み込む音だった。




 数分後、わたしはバイトの赤尾くんとカウンターに並んで立ち、女子高生が店を出て行くのを見送っていた。
 自動ドアの向こうで、彼女の紺色のスカートがひらりと揺れ、一瞬立ち止まり、そのまま人込みの中に消えていった。


 「……店長」赤尾くんが言った「……超かわいい娘でしたよね」
 「そうだね」わたしは答えた。まだ少し、呼吸が乱れていた。
 「スカート、超短かかったですよね」
 「そうだね」
 「ケーサツも親も、呼ばなかったんっスよね」
 「ああ」わたしは口の中でもごもごと答えた。
 「……やっぱ自分、正社員目指します」赤尾くんがいつになく熱のこもった口調で言う「……絶対、店長クラスまで昇りつめるっす」

 赤尾くんの目が、ぎらぎらと光っている。
 
 
 こいつはさっさとクビにしたほうがいいな、とわたしは思った。


 【完】

テーマ:官能小説・エロ小説 - ジャンル:小説・文学

 多くの男は、元カノと、ふつうの見知らぬ女を比較したとき、ふつうの女よりも元カノのほうが、セックスまで持ち込むハードルが低いと考えているようだ。


 たとえば今、あたしと電話で話しているツカモト。
 こいつの現在の心境なんかはその典型なんだろう。

 「最近、どうしてるの?」
 「別に、あんまり変わりないけど」

 あたしはできるだけ気のないふうを装って、言葉を選び、声の抑揚も抑えて答える。

 「・・・・・・最近ヒマでさあ。まあ仕事のほうは順調なんだけど、出会いが少ないっていうか」
 「ああ、そう」
 「で、そっちはどうなの?・・・新しい彼氏できた?」
 「いやそれ、あんたに関係ないよね


 ちょっとだけ、ほんの少し、軽くキレてしまった。
 いきなりそうくるか。

 
 「そーなんだあ・・・相変わらず、ガードが固め、みたいな?……なんか、男を寄せつけない雰囲気っていうかさ、そういうの、前からない?・・・・・・まあ自分ではわからないと思うけど」
 「え、あんた、あんたにはわかるっての?」

 いけない。
 またケンカ腰になってしまった。
 
 ツカモト、てめえ、いったい何様だよ。
 

 「え、なにキレてんの?」笑いながらツカモトが言う。
 「キレてないよ。別に」
 「なんでそうすぐムキになるかな~・・・そういうとこが、君のわるいとこだよ」
 「いや、だからそんなの、いまやあんたに関係ないし」
 「わかってるって・・・まあ、昔のなじみの、アドバイスだよ。そんなふうだから、彼氏できないんだよ」
 「ってか、なんであんたにそんなこと言われなきゃなんないわけ?」

 
 ツカモトは、あたしのことを良く知っているつもりなのだ。
 ほかの男たちよりずっと。


 確かにツカモトとはいろんなことをした。

 付き合ってるときは、会うたびにセックスをした。
 お互いの部屋で、そりゃあ人様にはとても見せられないような姿を彼には晒したし、ツカモトは他の男よりもずっとたくさん、あたしの服に隠れている部分について知ってる。

 たとえば、あたしのお尻の上に、双子のほくろがあることとか。

 それを発見したのはツカモトで、あたしはツカモトにそれを指摘されるまで、自分でもその存在に気づかなかった。


 「じゃあ今、ひとりなんだ。でもなんだかんだ言って、寂しいでしょ」
 「え、別に。・・・ってか、それも今やあんたとぜんぜん関係のないことなんですけど」
 「いや、わかるんだよ。そういいながら、君がすっごい寂しがりだって。だってそうだったじゃん。おれと付き合ってるときは。・・・普段の君からは想像もつかないだろうなあ・・・君が結構、甘えん坊で寂しがり屋さんだ、ってことを」
 「ってか、マジ、キモいんですけど」
 

 怖気が走った。
 なんなの、こいつ。
 
 
 「・・・そうそう、そういう、普段の態度と、プライベートのときの寂しがり屋で甘えん坊なののギャップが、グっとくるんだよなあ」
 「・・・え、ほんと・・・シャレになんないくらいキモいんですけど」
 「・・・そういうとこを、もっと表に出さなきゃ。男ってのはさあ、そういうギャップに弱いんだよ。普段、怖い顔して厳しいことしか言わない君が、ときどきそういう素顔を見せたら、もう並の男だったらたまんないと思うよ」
 「ちょっと、調子に乗りすぎでしょ。めちゃくちゃムカつくんですけど」


 マジで、なんなの、こいつ。
  中谷彰宏 ?


 こんな評価をあたしに下して説教するなんて、いったいこいつ今、どんな立場に立ってるつもりなのだろうか。

 
 そりゃあ、付き合ってるころは毎回のようにシックスナインみたいな体勢をとって、お互いのアソコを、ってかお尻の穴まで舐め合った。
 会社の事務服をあたしの部屋に持って帰って、ツカモトはスーツ、あたしはOL服で、イメージプレイだってしたことはある。
 目隠し&万歳拘束で、羽箒で責められたこともある。
 その逆で、ツカモトを目隠し&万歳拘束して羽箒で責めたこともある。
 休日のデート中に、雑居ビルの踊場で声を殺してセックスしたこともあった。 



 そういえば、付き合っているとき、大喧嘩したことがあった。
 たぶん理由は些細なことだったと思う。もうはっきりとは覚えていない。

 そのとき、わたしがツカモトを完全に言い負かしたら、いきなりツカモトが襲い掛かってきた
 乱暴に部屋の床に押し倒されて、むしり取るように衣服を剥ぎ取られた。
 ツカモトは超興奮していて、あたしは抵抗したけど、それはそれでまたなぜかあたしも興奮していた。
 
 多分あのころは、お互いそれなりに・・・お互いのことが好きだったのだろう。

 さっきまで怒り狂っていた相手が、妙に興奮して襲い掛かり、あたしの服をはがして、むしゃぶりついてくる。
 

 その乱暴な衝動にもとづく愛撫に身を任せていると、へんに心地よかった。


 あの時は、台所まで這って逃げたけど、四つんばいのまま組み伏せられて、お尻を高く上げさせられるような格好で、前戯もそこそこにぶちこまれた
 

 不思議なことだけど、その段階まで来たときには、あたしは口では

 『……て、てめー!!……あ、後で覚えてろよ!!!』

 みたいなことを言いながら、内心では超盛り上がっていた。


 ぶちこまれた時には、

 『ああああんっ!!!』

 みたいな、超甘えた声を出して、そのままカイラクの渦ノミコマレてしまった。


 『ほれほれ・・・なんだかんだ言ってもうびちょびちょじゃないか・・・気持ちいいんだろ?』


 とかなんとか、ツカモトが調子に乗ってあたしをがんがん突いてきた。

 『・・・き、気持ちよくねーーよ!!!』

 と叫んだけども、声がすっかり 鼻に掛かった甘え声になっていたので、ぜんぜん迫力がないことはわかっていた。
 というか、めちゃくちゃ気持ちよかった


 必死で声をこらえたけど、こらえようとすればするほど、声が出てしまう。


 声をこらえなきゃならない状況で、相手を見た目で喜ばせたくない、というような前提としてのあたしの認識みたいなものが、頭の中で変に作用し合って、あたしの全身にいつも以上の刺激を配信していた。

 
 実際、最後には台所で組み伏せられたまま、イッてしまった。
 実際、途中からはあたしも、なんとしてもこのシチュエーションでイッテしまおうと努力していた。


 その後は言うまでもないが、ちゃんと仲直りした。
 それからもしばらくツカモトとの交際は続いた。
 ほどなくして二人の関係は終わったけど、この件とは何の関係もない。



 あの頃は、お互いそれなりに、お互いの良いところを見つけ、それを好ましく思おうと努力していた。

 そう、努力。 

 たとえばこういうグダグダなセックスにおいても、何とか愉しみを貪欲に見つけ出そうとする積極的な姿勢があたしにもあったし、それはツカモトにもあったと思う。


 関係を継続するのに必要なのは、お互いの良さを探りあい、失点を見逃しあおうとする努力なのだ。
 その努力がどちらかから、あるいは両方から失われたとき、関係は崩れる。
 一緒に過ごすということは安らぎではなく、常に心を配っていかねばならない継続の努力だと思う。

 
 「……じっさい可愛いとこあるんだしさ、そこをもっと表に出すようにしなきゃ」
 「……え、えっと……何だっけ」


 しばらく昔のことを思い出していたので、ツカモトの話をほとんど聞いていなかった。
 まあ、聞いていたとしても同じ調子で、ロクでもないことを喋り続けていたのだろうけど。


 「……ほら、昔喧嘩したことあったじゃん。喧嘩した後……その、アッチの方になだれ込んじゃったことが」
 「え」

 一瞬、どきん、とした。

 「あの時のこと、今でもおれ、よく思い出すんだよ……なんつーかなあ……あんなにコーフンしたことって、アレ以来ないんだよね。……いやあ、ほんと、最高のエッチだったよ。ね、ちゃんと覚えてる?覚えてるでしょ?」
 「…………」
 「あの時さ、君もすっごく亢奮してたよね。あんなに激しくヨガったこと、それまでなかったもん。実際おれ、あんとき隣に君の声が聞こえないかどうか、ちょっと心配だったけど、それでも全然萎えなかったもんね。……なんつーの?野生の本能ってのかな?……おれってどっちかって言うと、繊細で内に篭るタイプじゃん?だから自分のなかに、あんなにキョーボーな本性が宿ってるなんて、思ってもみなかったんだよね。まあ、君がエッチなのは知ってたけどさ、でも、あそこまでMっ気っての?……そういうのがあるタイプだとは思わなかったなあ……実際、君みたいなパッと見は怖そうな、しっかりしてそうな女の子が、あーいう局面で見せるM的側面?……みたいなものを見せられると、実際男としてはたまんねー訳ですよ。ね、聞いてる?」
 「切るね
 「あっ……てめえこの……」


 プツ。


 なんでツカモトは、あのときの話題なんか持ち出してきたんだろう。
 

 あたしが、怒り気味だったからだろうか。

 だとすると、あのときのセックスの様相を思い出させれば、またあたしも自動的に超亢奮して、昔みたいにセックスができるとでも思ったのだろうか。

 そう思うと、笑けてきた。


 でも、同時に肌寒さも感じた。




 人は、ひとりでは生きられない。


【完】

テーマ:官能小説・エロ小説 - ジャンル:小説・文学

 わたしは超能力者である。


 あ、何かもうすでに、君の『話をまじめに聞こう』というモチベーションが下がるのが判ったぞ。


 いや、聞き手がどれだけ話をまじめに聞いているか、ということを推し量るのは、人並みに会話の空気を読むことができる人間ならば誰にだってできることだ。
 それは何も、超能力じゃない。


 わたしに授けられたこの奇妙な天分は、一種の透視能力だ。


 透視能力、というと何かスカートの上から女性がどんなパンツを履いているのかを見通せる、あるいは女湯と男湯を仕切る壁を見通せる、みたいに思われるかも知れないが、それは違う。


 え?何?……ますます聞く気を無くした?
 中学生レベルだな、君。
 わたしが超能力を使って道行く女性のパンツを片っ端から覗いてます、なんて話、君、聞いてて面白いか?

 

 わたしの透視能力は一種の霊感であって、研ぎ澄まされた感受性と感応性、インスピレーションと洞察力のたまものだ。

 犯罪現場を見ただけで、犯人の動機や犯行の様子、果ては容疑者の人相まで言い当ててしまう、サイコメトラーと呼ばれる超能力者たちがいるが(本人たちがそう言い張ってるのでそれを信じるとして)、わたしの能力はそれに近いものだ。


 ただ、わたしの能力はひとつのことに限定されている。
 
 わたしは、女性の体の一部分に触れることによって……その女性が一番最近にした性行為の様相を、脳裏には映像として、体感は感覚として、フラッシュバックさせることができる。


 つまりこうだ。

 たとえば駅前を歩いていたとする。
 まだ20そこそこの、なんだか死んだような目をした女の子が、パチンコ屋の広告付きのポケットティッシュを配っている。


 「CR『火垂るの墓』本日入替です~……」


 などと、彼女が気のない素振りで差し出すポケットティッシュを受け取りざまに、そっと彼女の指に触れる。



 と、その瞬間、わたしの脳裏にはありありと映るのだ。

 彼女がどこかの狭いワンルームの小部屋で、全裸でいる姿が。
 
 今は安物のジーンズに窮屈に押し込めている丸く大きな尻を、シングルベッドの上で突き出して、四つんばいになっている様が。

  Tシャツの上からは伺えない、たいへん発育のよろしい瓜型のふたつの乳房が、ベッドの弾みとともに水を満たした風船のように重く揺れる様が。

 肩越しに彼女が彼氏に送る、おねだりするような眼差しが。

 一日中バイトで声を出しすぎて、ちょっと酒やけのように掠れたそのハスキーボイスが、甘えるような吐息に変わる、その響きが。

 尻を高く挙げた後背位の姿勢で、彼女の体内ににゅるり、と押し込まれる陰茎の感覚が。
 その瞬間は、驚くべく事に……わたしも下腹部に、何ががにゅるり、と侵入してくるような異物感を感じるのだ。


 部屋の空気の臭い(つまり、アレの香りだ)や、微かに映る壁紙の色、おぼろげな彼氏のシルエット(丸坊主で中肉中背だ)、ベッドの上のシーツの感触、そして、内壁で感じる彼氏の陰茎の脈拍までもが、ありありとわたしの五感を通して再現される。


 ほんの半秒ほどの出来事だ。
 しかしその感覚はあまりにリアルで、生々しい。


 幻影の発作から開放されると……わたしはティッシュを手に彼女の前を通り過ぎていて、振り返れば先ほどは幻影の中でむき出しになっていた彼女の尻が、ジーンズの布に包まれてこっちを向いている……という具合。

 
 そんな生々しいビジョンを見た後で、ちゃんと服を着てティッシュ配りをしている彼女を改めて嘗め回すように見やるのは、また格別である。


「CR台『火垂るの墓』本日入台です~……」


 ふーん。なるほど。

 バイト先ではあんなにテンションが低いのに、ベッドの上ではねえ。

 ふむふむ。
 へーえ。

 というように。



 この能力は、自分で制御することができない。

 ありとあらゆる場で、わたしの指が他の女性に触れるたびに……その女性の直近の性体験が、リアルな映像と感覚を持ってわたしの頭で再現されるのだ。

 先日など、某ファーストフードチェーンでつり銭を受け取った際に、レジカウンターのアルバイト女子(恐らく10代後半)の指に触れてしまった。


 と、途端にわたしの視界に、毛むくじゃらの剛毛が広がり、口内に大いなる異物感が分け入ってきた……なんとそれはにまで達して、わたしを噎せさせた。


 その後感じたのは、熱い肉茎の表面と、口いっぱいに満たされた精液の苦い味、そしてその熱く粘性の高い液体が、ゆっくりと食道を通っていく感覚である。

 そのフラッシュバック発作の後、わたしははっとして顔を上げた。


 目の前で¥0の営業スマイルを作っているのは、どことなく垢抜けない、まだあどけなさを残したような、印象の薄い少女である。

 わたしは今味わった精液の味とその牧歌的な彼女の風情に大いなる落差を感じ、愕然としながら、その店でハンバーガーとシェイクを味わった。
 味わおうとすればするほど、口の中に再現された精液の後味がおぞましく思えた。


 
 この特殊な能力が、女性に対して……しかも、性体験限定で発揮される理由は、わたしにもよくわからない。まさに神秘であるとしか言いようがない。

 

 居酒屋でジョッキを受け取った際に、もう60は越えていると思われるママさんの、(悠に5年くらいは前の)ご主人との交歓が再現され、食欲も飲酒欲も性欲も、一時的にではあるが失ったことがある。

 かと思えば、役所での手続きの際に、30歳前後の生真面目そうな窓口女性の手に触れた瞬間、全身に食い込む荒縄の感覚と、肛門にこじ入れられる(おそらく人工物であろう)異物の感覚が再現され、大いに戸惑ったことがある。

 さすがに先日、通勤電車で小学生女児の手が偶然わたしの腕に触れた際(誤解しないで頂きたい。わざと触れたわけでもないし、ましてやましい気持ちなど毛頭なかった)、自宅のお布団の中と思しきところで自分の陰核をまさぐる自分の指先の感覚と、はげしい亢奮と、背徳感がわが身に再現されたときは、気が遠くなった。



 さて、勘のいい読者の皆さんならもう関心を抱かれているところだろう。

 
 そのような超感覚を持つこのわたしが、実際に女性と性行為に及べば、どのような感覚を得ることができるのかを。

 

 それはまさに、空前絶後の感覚である。


 自らの触れる相手女性の器官の感覚が、ダイレクトな直感となってわが身に再現されるのである。

 相手の左乳首に口づけすればその感覚が自分の乳首に電撃のように走る。
 
 わき腹を愛撫すればその感覚がわたしの全身を泡立て、首筋に舌を這わせれば相手が感じる感覚を自分の全身が知覚し、躰をわななかせる。

 もしや大きく開いた脚の奥に我が顔をうずめ、その舌先で快楽の中枢を刺激した暁には……。



 わたしはその恐るべき感覚を表現し、君らに伝える言葉を知らない。



 ならば、その感覚を君自身もわが身で味わうしかないだろう。
 君も多いにその未知の感覚に興味を惹かれている様子だし。

 
 自分には、そんな能力は無いと?


 失望することは無い。
 この超感覚はちょっとした修練によって、誰にでも身につけることが可能なのだ。


 はっきり言って、セルフコーチングや速読術、記憶術などよりもずっと簡単に、わたしが持つこの能力を、君も共有することができる。


 興味がわいたかね?


 ちなみに通信教育の初心者コースは¥20,000から受け付けている。


 興味を抱かれた懸命な読者の諸兄は、コメント欄まで連絡をいただきたい。


【完】   

テーマ:官能小説・エロ小説 - ジャンル:小説・文学

 「さあ、それじゃあ・・・一枚一枚・・・脱いでもらおうか」
 「・・・は、はい」

 荻原さんは、あたしと一切目をあわさずに、ベッドに腰掛、タバコをふかし、いかにもそれらしく振舞おうとしている。


 それらしく、というのは、金にものを言わせて女を自由にするゲス野郎のことだ。


 でも、ほんとうの彼はそんなことはとてもできない小心者だ。
 小心者だけど、品性は下劣なので、やはりあたしの願っていたとおりのことを言ってくれる。


 「・・・あの・・・う、上から脱げばいいでしょうか。・・・そ、それとも下から?」
 「・・・・そうだな・・・・・・・・・・・・・・・」しばらく考え込む「・・・・スカートの下、パンツだけ?」
 「・・・・ええっと・・・・そ、そうですけど」
 「じゃあ・・・下から」

 そういうところにはこだわりがあるらしい。
 あたしはゆっくりとスカートのホックに手をかけた。
 ホテルの部屋にはいたるところに鏡が張ってあって、いろんな角度からあたしの姿を見ることができる。
 

 スカートを脱いだ。


 ふぁさり、という感じであたしの足元にスカートが落ちる。
 シルクの、黒いパンツが露になった。
 ちょっとメッシュが入ってたりして、いやらしいデザインのやつだ。



 荻原さんが、ゴクリ、と、まるでマンガみたいに唾を飲み込んだ。
 ずきん、ときた。最初にきたのは、胸の痛みだった。
 

 あたしは次に、ブラウスに手をかけた。


 「あ、ちょっと待って・・・」荻原さんが、手を差し伸べて言う。


 あたしはブラウスのボタンから手を離して、そのまま身体の前で重ねた。
 いらっしゃいませ”とでも言い出しそうなポーズだったけど、きっと荻原さんにしてみれば、あたしがパンツが丸見えになっていることを恥じらっているみたいに見えるだろう。


 荻原さんは脂でガ表面がひどく汚れたメガネを一旦外し、枕元に備え付けられていたティッシュを一枚取ると、丹念にレンズを拭き始めた。
 

 しっかりと目で楽しむつもりなのだ

 

 また、ずきん、ときた。次にずきん、ときたのは、おへその上だった。


 「・・・いいよ、続けて・・・」メガネをかけなおした荻原さんが言う。
 
 あたしはコクリ、とうなずくと、ひとつひとつ、丹念にブラウスのボタンを外し始めた。


 その指使いと、あたしがすり合わせる太ももと、うつむき加減のあたしの表情・・・そういったものすべてに、荻原さんの熱い視線が注がれているのがわかる。


 まるで、コップ一杯に注がれて表面張力しているようなお酒に口を近づけて、一適もこぼさずに味わおうとしているようだった。
 

 ああ、これ、これよ。
 あたしは思った。
 思ったとおりの人だわ、荻原さんって。


 「・・・恥ずかしいだろう・・・?」荻原さんがもごもごと言う「・・・ほら、こんな羽目になるなんて、後悔してるだろう?」
 「え・・・いえ、はい・・・いや、いいえ・・・そんな・・・」曖昧にもほどがある返事をしてみる。
 「無理しなくてもいいよ。君は後悔してるだろう・・・?・・・でも全部、君が悪いんだからね」


 ブラウスのボタンを全部外してしまって、ふわりとそれも床に落とした。
 あたしはブラいち、パンいちの姿になって・・・再び身体の前で手を合わせ、もじもじと太ももをすり合わせた。


 「・・・恥ずかしいだろう?・・・やっぱり。なんであたしがこんな目に遭わなきゃなんないの?・・・・って・・・思ってないかい?」
 「・・・え、そんな・・・」
 「ブラジャーも、外して」
 「・・・はい」


 背中に手を回して、ホックを外す。

 ふわ、と胸のしめつけが緩くなって、あたしの鼓動がさらに一段、早くなる。
 両腕で胸をかばうようにして、肩のストラップを注意深く外す・・・そんな一挙一動を、荻原さんは見逃そうとしない。


 「・・・パ、パ、パンティーもだよ」
 「は、はい」



 きた。

 パンティー”



 荻原さんが、いかにも言いそうな言い方だった。
 また、ずきん、ときた。
 こんどはおへそよりも、もっと下の部分に痛みを感じた。


 言われたとおりに・・・両腕で荻原さんの視線から身体を守るように振る舞いながら、パンツを脱いでゆく。


 すっかり脱いでしまうと、右手を伸ばして股間を隠しながら、左手で右の二の腕を握るようにして胸を隠し、中腰の姿勢で立つ。



 ・・・あたしは表情に気をつかった。



 上目遣いで、下唇を噛みながら・・・『もう、これで許してください』・・・というようなことを表情で訴えかけられるように努力した。


 「せ、背筋をしゃんと伸ばして・・・・そ、そうだ・・・気をつけ、気をつけの姿勢だ・・・・」


 小さな声で、命令口調を作る頼りなげな声。

 
 「・・・で、でも・・・」
 「・・・なんで・・・なんでこうなったかわかってるよね?・・・そう、忘れてないよね?・・・・き、君は僕に・・・返せない借金をしたんだ。・・・そうだろ?」
 「・・・は、はい・・・」
 「・・・か、返せる見込みがないんだったら・・・・しゃ、借金なんか・・・しちゃだめだよね?」
 「・・・そ、そうです・・・でも・・・」
 「・・・でも、君は借金をした。で、それを・・・か、返せないと僕に言った・・・じゃ、どうやって・・・どうやって僕の損害を埋めるの?」
 「・・・・・」


 あたしは中腰の姿勢で、必要な部分をまだ隠しながら、もじもじと身体をくねらせた。
 時折、荻原さんを見上げて、祈るような視線を投げかける。

 
 荻原さんのような男が、ますます意地悪な気分になりそうな、まるで子供が先生に許しを請うような、泣きそうな目で。



 『てめえ、ガキじゃねえんだからいまさら何甘えてんだよ

 と、思わず怒鳴ってしまいそうな顔で。


 ほんとうに自分が間抜けで、頭の弱い、安易な女になった気がした。

 さっき痛んだところからさらにおへその下、ほとんど、恥骨の上辺りにまた、ずきん、と痛みが走った。


 こんどの痛みは、痛みではなくほとんど痺れに近かった。


 「・・・・身体で返すって・・・言ったよね?」と、荻原さん「・・・好きにしていい、って言ったよね?」
 「・・・・い、言いました・・・でも・・・こんな・・・」
 「気をつけ!!!


 突然、荻原さんが大声を出してベッドから立ち上がった。
 
 ひっ、と実際マジに驚いて、思わず気をつけをする。


 「・・・ほら・・・そうだ・・・いい子だ・・・いや、悪い子だ・・・お金のありがたみがわかってない、悪い子だ・・・」
 「・・・・ま、待って・・・待って・・・くだ・・・さい」


 荻原さんがじりじりと、すり足で近寄ってくる。
 あたしはじりじりと、逃げ場の無い壁のほうへ、後ずさる。


 「・・・だめだ・・・今日、僕は君を自由にできるんだよ。君、僕にいくら借りたか、わかってる・・・?」
 「・・・・・」また胸を両手で庇いながら・・・下半身は丸出しだったけど・・・唇を噛んで顔を背ける「・・・・さ、30万・・・です」
 「そうだ・・・30万円。僕の一ヶ月分の給料だよ?・・・え?僕は、そのお金のために、一ヶ月も、身を粉にして働かなきゃならない。・・・わかるだろ?」
 「・・・・でも・・・あたし・・・・」
 「でも、あたしじゃないだろ!!!ほら!!!」
 「・・・・あっ、いやっ・・・・んんっ!!!」

 荻原さんがあたしを抱きすくめた。

 すばやく顎をつかまれて、唇に吸い付かれる。
 すかさず、舌が入ってきた。
 そのまま、口の中を、好き放題に舐りまわされる。
 

 頭の中が、じーん、と痺れた。
 頭の奥に穴が開いて、そこから新鮮で冷たい空気が入ってくるみたいだった。


 こんなこと言うと本当に変だと思われるかも知れないけれど・・・それだけで、溢れそうになった。


 長い、長い、強引で、ひとりよがりで、闇雲なキスが続いて、ようやく荻原さんが唇を離す。


 「・・・どうだ?イヤだろう???
 「・・・んっ」顔を背けようとしたけど、顎を掴まれた。
 「・・・どうだ?・・・僕みたいな男と、こんなことするのはイヤでイヤでしょうがないだろう??」
 「・・・・そ、そんな・・・・あ、あうっ」
 

 今度は荻原さんの唇が、首筋に吸い付いてきた。
 首筋から鎖骨へ、鎖骨からおっぱいへ・・・荻原さんは夢中で吸いまくりながら、まるで呪文のように言葉を続ける。



  「・・・ほら、イヤだろう?・・・これが、これが30万円の・・・リ、リスクだよ・・・き、君だって・・・僕みたいな冴えない男に、こんなふうに自由に身体をねぶりまわされて・・・死ぬほどイヤな気分だろう?・・・ほんとは彼氏にしか・・・イケ面の彼氏にしか・・・・こ、こんなことはさせたくないだろう?・・・・・・悔しいだろう?・・・つらいだろう?・・・悲しいだろう?・・・ほら、ほら、どうなんだ?」
 
 
 まるで、自分に言い聞かせているみたいだった。
 あたしの頭は、ますます痺れてきた。
 あたしの乳房をべろべろと嘗め回す荻原さんを見下ろす・・・醜悪きわまりなかった。


 餌にがつつく下品なブタそのものだった。

 

 でも彼の繰り出す言葉のみみっちさを感じれば感じるほど・・・
 彼のあさましい、醜い姿を見れば見るほど・・・
 あたしの頭は痺れ、身体はとめどなく溢れ続けた。



 これよ。これ。
 こうでないと。
 こうでなきゃ。



 あたしは演技だと悟られない程度に、軽く抗いながら・・・それでも肉体的にはさもしい感覚を受け入れてしまう、悲しい女のサガ、的なものを必死で表現した。
 表現した、というのはちょっと嘘だ。
 さもしい感覚のほうは、自分が今感じているしびれるような快感に任しておけばよかったのだから。



 「・・・・ほら、どうだい?・・・君は今、30万円のツケを払ってるんだよ・・・まだまだ、まだまだこんなもんじゃ足りないよ・・・僕の一ヶ月分の働きが・・・僕の一ヶ月分の働きがどんなものか、・・・・き、君の身体に、教え込んでやる・・・お金の大切さを・・・その身体に刻み込んでやる・・・・ほら、どんなことをされるか、想像しただけでゾッとするだろう・・・?・・・頭から僕を追い出そうとしても無駄だからね・・・ほら、どんなに目を閉じて、頭の中で僕とは正反対の、さわやかなイケ面の彼氏を思い浮かべてもムダだよ・・・今、君の身体をもてあそんでいるのは・・・僕なんだ・・・君に30万円を貸した、債権者の僕なんだ!!」
 「・・・・い、いやあっ!!・・・んんんんっ!!」

 荻原さんが、あたしの左乳首に吸い付いてきた。
 そのまま彼はあたしの身体を反転させると、ベッドのところまで押していき、どん、と突き飛ばすように投げ出した。


 「・・・ほうら・・・30万円分、今晩はたっぷり楽しませてもらうよ・・・一銭も無駄にしないから覚悟してね・・・さあて・・・まずは最初の5000円分、誠意を見せてもらおうか・・・」


 あたしはベッドの上で仰向けになりながら、荻原さんがズボンのベルトを緩めるのを見ていた。
 


 ベッドサイドには錠剤のシートがひとつあって、2錠分が空になっていた。
 つまり・・・あれは・・・その、男性が元気な状態を保つための、その類の薬なのだろう。



 ああ、なんていじましいんだろう。



 あたしは『もう許して・・・』の表情を崩さぬようにしながら、じりじりと全身を駆け巡るしびれに身もだえしていた。


 あたしは間違ってなかった。
 荻原さんは、あたしが思ってるとおりの男だった。
 

 30万円の借金を申し込んだとき・・・荻波さんの目が、眼鏡の奥で・・・暗く、かすかに歪んだのを見た。

 
 たぶんあの時点で荻原さんは・・・今していることの青写真を頭に描いていたのだろう。
 あたしの借金が、お金では返ってこないことは、彼にも十分わかっていたはずだ。
 
 
 もちろん、あたしも荻波さんにお金を返すつもりなどさらさらなかった。



 一ヵ月後、お金を返せないことを告げたときの荻原さんの表情を思い出すと・・・。

 だめだ。また、とんでもなく溢れてきちゃった。

 すりあわせた内腿が、ちょっとぬめっていた



 「・・・・ほうら・・・・まず、誠意を見せてもらわないと・・・言っとくけど・・・これは利子分だからね・・・ちゃんと誠意を見せないとだめだよ・・・」


 凶悪なまでに張り詰めて、赤黒く鬱血し、ひくついている債権者の先端が、あたしの鼻先で熱いよだれを零していた。


 あたしはまた、『お願いだから許して・・・』の顔を作り、一旦荻原さんの(ニヤけた)顔をしばらく見上げると・・・観念したように目を閉じ、唇をそっと開いた。


 
 あ、借りた30万円・・・?



 今日履いてきたパンツを買って、残りは『あしなが育英基金』に寄付した。


【完】

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 さてまあ幼稚園時代、“たばたせんせい”を練習台としてのキスの修練に励んだわたくしではありますが、幼稚園が終わり、そのまま小学校に入学しますとほんとうにフツウの子供になってしまいました。


 “たばたせんせい”のように幼児や子供に対して変態的な欲情を抱く、「大人の女性」というものはそうそう出会えるものではありません。まあ、幼女や少女に劣情を催す変態なんていうのは、当然わたしの子供の頃もたくさん居たでしょうけどね。
 

 なかなかその逆、というのはあり得ない。
 いたとしても、女性のそうした欲望は男性のそうした欲望よりも(どちらもと多分に反社会的なものではありますが)この世の中では抑圧されているようですね。

 
 多分、潜在的にはその手の女はたくさん居るのでしょうけども、なかなか出会うことはできません。
 
 
 かと言ってわたしもボーッと少年時代の始まりを過ごしていたわけではありません。
 
 
 さすがに小学校低学年の頃は周りにいる女子児童なぞ、ほとんど毛の生えてない猿と同じであってそれは男子児童にとっても同じことで、すでに自己の“性別”をおぼろげながらも認識していたわたしにしてみますと退屈きわまりない時期であったことは事実です。
 
 

 この退屈な数年間にわたくしが味わったのは、性的なものから隔絶されていたことからくる飢餓感と、同性に対する引きかえせないくらいの嫌悪感でした。
 


 とにかくわたしは、クラスメイトの男子児童と一緒に居るのがいやでいやで仕方ありませんでした


 まあ、手足を振り回したり、泣きわめいてるかと思えばげらげら笑っていたり、げろを吐き戻したり、うんこやおしっこを垂れたり、意味もなく暴力的、威圧的に絡んできたり、徒党を組んだりと、まったくもって同性のクラスメイトというものはわたしにはうんざりとした気分しか与えてくれません。
 

 まあわたくしは何度も申し上げておりますように幼児期から相当の美貌を有し、幼児から少年期の入り口に差し掛かるにあたってその美しさにもますます磨きがかかっておりましたので、少しおませな女子のクラスメイトなどは早くもわたしに好感を抱き、話しかけてきたり一緒に遊ぼうと誘ったりしてくれもしたのですが、同じクラスの男子児童たちにはそれがとても奇異に映るらしい。
 

 奇異というか、違和感を感じるらしい。
 

 よくある、「女のなかに、男がひとりい~」みたいな感じです。
 

 彼等としては、まだ男子としての性徴を獲得しておらず、同級女児に対しても性的に惹かれるまでは至っていませんので(これはわたしの個人的感覚ですが、その点に関して男子は女子より成熟のスピードが緩い)、わたしに対して妬みを感じているとか、そういうのではまったくない。
 

 ただ単に、自分達と違う、それだけで、彼等にとってはわたしが許せないのであります。
 

 わたしは迫害に遭いました。
 まあいわゆる、いじめです。
 

 とは言っても、精通もずっと先に控えた8歳9歳の子供のするこですからたかが知れています。
 


 上靴を隠されたり、砂場で頭から砂をかけられたり、わざと給食の牛乳をこぼされたり、ランドセルに小石を入れられたりと、まあその程度のこと。
 

 わたしは別段気になりませんでした。

 なにせ、わたしのほうから彼等と打ち解けようという気持ちがまるで無かったのですから。
 まあこの程度で彼等も子供じみた優越性を得ることができるのであれば、それでいいのかな、と。
 

 この時点で、わたしの同性という生き物に対してどうしようもなく幻滅してしまいました。
 

 彼等とのつきあいは、わたしにとって何のメリットももたらさない。
 小学校低学年の頃に培ったこの信念は、40を越した今となっても変わりません。
 

 そんなわけでわたしは小学校では女子たちの群れの中で生きるしかありませんでした。
 しかし、そこもまたわたしにとっては天国ではない。
 退屈極まりないのです。
 

 少々おませさんで、8歳9歳で異性を意識するような少女達とはいえ、しょせん子供は子供であります。


 彼女らは純粋にわたくしの顔の美しさに惹かれ、わたしをちやほやしたのでしょうが、それは恋愛感情やら性愛とは何の関係もなく、漠然とした“恋愛”のイメージの片鱗を模写しているようなものです。
 

 わたしと手を繋ごうとしたり、お菓子をくれたり、露骨にパンツを見せてきたりはしますが、しょせん彼女らは子供。男子たちと同じで、中にはなにも詰まっていません。



 がらんどうです。 

 
 わたしは死ぬほど退屈していました。
 


 毎日学校に行くたびに、ひどい退屈と空虚感に襲われ、早く家に帰りたい…そればかりを望んで日々を過ごしていたものです。
 

 そんなこんなでなんとか4年間をやり過ごし、わたしも4年生になりました。
 

 この時、教室で隣の席になったのが、水井さんという少女でした。
 当時、わたくしはまだ10歳の誕生日を先に控えたところで、彼女はもう10歳でした。
 

 彼女はなんとなく……そのへんのまだ小便臭さぷんぷんたる、ジャリどもとは違う印象の少女でした。どことなく、寂しげで、憂いを秘めていて、大人びているというか。
 

 はっきりいってとびきりの美少女だったというわけではありません。
 

 背が高く、やせていましたが、顔はどちらかというとのっぺりとしていて少々寄り目でした。
 肩くらいの長さの髪を、左右に、ぞんざいに三つ編みにしていたのをよく覚えています。
 

 彼女の家庭はとても貧しい家庭だったらしく、着ているものもなんだか貧乏臭かった。
 

 しかしそのぼんやりとしたとらえどころのない視線が、わたしの中の何かに作用したのです。
 その時のわたしが思ったことはこうでした。
 

 “この女には、中身がある

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 地方に出かけたときのことだった。
 その駅は無人駅で、電車を待っているのははじめ、わたし一人だった。

 電車がやってくるまでは雄に40分ある。

 本も持ってこなかったし、当時はi-podも持っていなかったので、わたしにできることはいやがらせのように広がる田園風景を眺めていることくらいだった。


 ああ、いったいこんなところで暮らす人間は、何を楽しみにして生きているのだろうか?
 ファミリーレストランはおろか、コンビニすらない。
 たとえば10代の若者たちは、こんな場所でどんな青春を過ごすのか。


 まあ、バイクを乗り回すには土地が有り余ってると思うけど、あぜ道をバイクで走り回るのはどうも絵にならない。
 畑の中を耕運機で走り回ってるほうが、ずっと生産的だ。


 では何だ。
 あとは不純順異性交遊か?


 そうだろうなあ、それしかないだろうなあ、などと考えていると、高校生らしいカップルがどこからともなく現れ、ホームに入ってきた。


 男子のほうは、ちびで、眼鏡をかけた、やせた少年だった。
 女子のほうは、肉付きがよい、健康的な雰囲気の少女で、まかりまちがっても美少女ではないが、目も当てられない、というほどでもない。

 わたしはホーム中央のベンチに腰掛けていたが、二人は短いホームの端っこの地べたに、べたり、と腰を下ろした。



 体勢は・・・胡坐をかいた少年の開いた足の間に、ぴったり少女のほうが納まるような感じだ。
 ちょうど、猿が毛づくろいをしているような格好である。


 
 なるほど、ここならイヤってほどイチャつけるよなあ、とわたしは思った。
 もちろん、わたしの存在を気にしなければ、という話だが。

 

 わたしはあまり二人のことを見ないように心がけて、そのまま電車を待った。
 風が強い日で、春だというのにその界隈はまだ肌寒かった。



 しばらく、何の刺激も、展開もない時間がいたずらに流れた。

 

 と、強い風がびゅう、と吹いて、二人の声をわたしに届けてくる。


 「ヤバいって・・・見られるやん」少年の声だ。
 「・・・大丈夫やって・・・見てへんって」少女が囁くように答える「・・・あっ、そこ・・・」



 自分には関係のないことだし、最初は気にしないつもりだった。
 しかし、誰かに見られているかいなか、と彼らが気にするべき対象は、わたししかいない。
 それに、今のわたしには、見るべきものもなければ聞くべきものも何もない。


 そっと顔を向けて・・・ホームの端の二人にちらりと目をやった。


 間抜け面の少年と、ばっちり目が合った。


 「・・・あっ・・・あかんて・・・やっぱりおっさん、こっち見てるわ」と少年。


 『おっさん』というのは、かなりの確立でわたしのことらしい。



 わたしはあわてて二人から目を逸らせた。
 
 と、今度は少女の声が聞こえてくる。


 「・・・・ええやん・・・」少女の声は、どこか熱っぽかった「・・・そのまま、続けて」
 「でも、見られてるし・・・」
 「見られるくらい、ええやん」
 「ええの?」
 「・・・ええって・・・続けて」



 どうやら見られてもいいらしい。
 また何気ないふりを装って・・・ちっとも何気ないようには見えなかっただろうが・・・二人の状態を確認した。


 
 『猿の毛づくろい』の姿勢は変わらなかった。
 しかし胡坐をかいた少年のひざの上に乗る姿勢で座っている少女の両脚は、線路側に向かって大きく開かれていた。
 

 たくましいくらいの脚だった。
 白いソックスは、彼女の脹脛の緊張で、張り裂けんばかりだった。


 汚いスニーカーを履いた足先が、時おりぴくん、ぴくんと跳ねる。


 後ろから覆いかぶさるように少女の背中を支えている少年の右手は、大きく開かれた少女の脚の間・・・スカートの中に消えていた。
 左手は・・・ちゃんと見えないが、少女のかなりダレた紺色のカーディガンの中に入っているらしい。

 
 彼の両方の手は、寸暇を惜しむように、せわしなく動いていた。


 「あっ・・・やっぱり・・・やっぱり・・・おっさん俺らのこと見てるわ・・・・」と少年。声が上ずっている。
 「・・・ええやん・・・そんなん・・・見させときいな・・・・」
 「・・・・でも、チラ見とちゃうで・・・ガン見やで」


 わたしは少年の言葉で、自分が指摘されたとおり、二人のことをガン見していることに気づいた。



 「・・・見たいんやったら・・・見させといたらええやん・・・
 

 少女がちらりとわたしを見やる。


 切れ長の一重まぶたの奥に、熱と冷たさが同居する黒い瞳があり、それがわたしを捉えた。
 彼女はわたしの顔を見るなり、口の端を歪めて下品な笑顔を作った。
 そしてその直後、少年の与えた刺激にぴくん、と反応すると、少女はわたしの視線から離れ、自分だけの感覚の世界に戻っていった。


 「あっ・・・見てるわ・・・ほんまに・・・見られてるわ・・・んっ」


 少女が夢見心地で呟く。


 「な、見とるやろ?見とるやろ?」少年の声はさらに上ずっている。
 「・・・見てる・・・めっちゃ・・・バリ凝視してる・・・」
 「でも・・・おっちゃん・・・怒らへんかな・・・」
 「・・・なんでえな・・・んんっ・・・なんもうちら、迷惑かけてへんがな・・・・あんっ」少女の膝が跳ねる  「・・・シュンちゃん、背中に当たってる・・・・すごい固くなってへん?」


 少女が肩越しに少年の顔を見ながら、右手を・・・後ろに回した。


 「おっ」今度は少年の肩が跳ねる。

 「すっごい・・・カッチンカッチンやで・・・・」
 「・・・おい、ちょっと・・・あかんてミキちゃん・・・あかんって・・・そんな、チャック開けたら・・・おっさん見てるがな」
 「見させときーや・・・・わああ・・・え・・・なんかもう・・・濡れてるやん・・・・」
 「そ、そんなん・・・お前こそ・・・・もうパンツべっちょべちょやぞ」
 「・・・・・そ、そこ、そこあかん・・・・あっ・・・んっ・・・ああ・・・おっさん、まだ見てるわ・・・・」

 確かに見ていた。
 見やいでか。

 「・・・あかん、あかん・・・そんな、そんなんしたら・・・出てまうって・・・・」少年はかなり、切羽詰っていた。
 「・・・・ほら、ほら・・・もう、ぴくんぴくんしてる・・・人に見られてると・・・コーフンするやろ
 「・・・おまえ、ほんまにエッチやな・・・・いつからそんなに、エッチになったんや・・・・」
 「シュンちゃんやん・・・エッチにしたんは・・・・あ、そこ、そこ、そこ、もっと・・・」



 少女の腰が、上下に、前後に、左右に揺れている。

 わたしはもう、半身を彼らのほうに向けて、その一挙一動を見守ってきた。



 「・・・・見てる・・・・めっちゃ見てる・・・・おっさん、超コーフンしてる・・・」少女がうわごとのように呟く。
 「おまえも・・・見られてたら・・・もっと興奮するんやろ・・・ほら・・・なんか、いつもより・・・・」
 「・・・あかん、そんな、そんなとこあかんって・・・・あ、でも、なんか・・・なんかいつもより・・・」


 いまや少女は少年の膝の上で背を弓なりに逸らし、胸を突き出していた。
 カーディガンの奥でその乳房をこねまわす少年の手の動きが、はっきりと見て取れる。




 と、いうところで電車がやってきた。
 信じられない速度で、あっという間に、40分が過ぎていたのだ。



 『ファック!!』



 わたしは心の中で毒づくと、大いに後ろ髪を引かれながら、電車に乗り込んだ。


 ホームを出て行く電車の窓からも、ちらりと少年と少女の姿を確認する。
 
 少年と少女は、『猿の毛づくろい』の姿勢のままで・・・車内のわたしを見送ってくれた。
 一瞬、大きく開いた少女のスカートの中が見えた。

 ブルーのコットンのパンツの中に、しっかりと少年の手が納まっていた。


 電車が駅を離れてからしばらくして・・・わたしはガラガラに空いた車内でマヌケのように突っ立っていることに気づいた。
 適当な席を見つけて、腰を下ろす。
 窓から見ると、駅はもうずっと遠くて、小さくなっていた。
 



 深くため息をつく。



 次の駅で、女子高生が一人乗ってきて、わたしの正面に座った。
 さっきホームにいた少女と、同じ制服を着ている。
 マッシュルームのようないまどきではない髪形をした、大人しそうな少女だった。
 


 「誰かさんと誰かさんがむ~ぎば~たけ~・・・


 わたしは、わざと、少女に聞こえるように低い声で歌った。


 「クチュクチュクチュクチュし~てい~る、い~じゃな~いか~・・・


 少女は明らかに怯えていた。
 そしてちらりと、恐る恐る、わたしを見ると・・・あわてて視線を逸らせた。


 「ぼ~くに~はかんけ~いな~いけ~れど~・・・


 少女が立ちがり、隣の車両に移っていく。
 その小さな尻が揺れながら去っていくのを見送りながら、わたしは歌の最後の小節を同じ調子で歌った。


 「・・・い~つかはだ~れかさんとむ~ぎば~たけ~・・・


【完】

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 よーしみんな。拍手と野次はそのへんでいいからそろそろはじめようか。
 まず、てめえらが一番聞きたいことを聞かせてやるよ。


 はっきり言おう。

 おれは塾講師で、中学生の教え子とヤった。


 ああ、やったよ。
 やりまくったさ。

 それはあの子がブログに書いていたとおり、皆さんご存知のとおりだよ。


 
 あの子?
 ああ、処女だったよ。
あたりまえだけど、最初だけだぜ。処女なのは。
 なにせ、14歳だからな。
 

 てめえらみたいに一日中ネットばかりやって、ここ数年、口をきいた女はテメエのおかんだけ、ってな類のウジ虫どもが思ってるほど、世の中乱れも狂いもしてねえんだよ。


 ああ、最高だったよ。
 おれだって処女とヤったのはこれがはじめてだからな。
 

 でも、結構大変だったよ。
 なかなか入んなくてさ。
 

 相手も痛がったけど、そこでやめてどうするんだよ。
 なにせ、処女がセックスさせてくれる、つってんだぜ。
 

 おれは全精力を肉棒に集中させて、あの子にぶち込んだよ。
 出血は、想像してみたほどじゃなかったな。


 
 実際、うらやましいだろ。
 あんたもそうだろ?
 処女とセックスしてみたいだろうが。


 おれとあんたは所詮同類なんだよ。
 おれも、あんたと同じで、昔から処女とセックスしたいと願っていた。
 で、おれはファックした。あんたは機会に恵まれてない。
 それだけの話だっての。



 おれとあんたに、道徳的・倫理的な優劣があるか?
 単に、あんたは機会に恵まれてないだけの話だろ。



 当然、向こうがおれとファックしていい、つってるからファックしたんだぜ。
 無理やりファックしたわけじゃない。



 向こうがいい、つってても相手はまだ中学生だろ、ってか。
 あんたは大人なんだからそれりに分別もわきまえてるはずだから自制すべきなんじゃなかったのか、ってか。


 ああ、そうだろうな。


 同じような理由で、日本は真珠湾を攻撃するべきじゃなかったのかもな。

 結果がわかってても、人間やるときはやる。
 正しいかどうかなんて、その場ではちっとも考えないね。

 正しいかどうかなんてこと、後でそれを評価する連中が、嫌でも沸いてきて勝手にしてくれるもんだろ。



 14歳の女の子が、おれみたいな男とセックスしたい、つってんだぜ?
 それもタダで。 
 あんただったら断れるかい?


 絶対断らないだろ。


 おれはガキには興味ないってか?
 ウソつけっての。
 女なんて、若けりゃ若いほどいいに決まってるじゃねーーーか。



 ってか、14歳のガキには人格ってもんがない、とでも思ってやがるのか?
 ウソつけよ。
 あんた14歳の頃、人格なかったかい?


 これはウソじゃないけど、おれは別に、彼女が肉体的に14歳だったから、選り好んでセックスしたわけじゃないぜ。
 言っとくけど、そうじゃない。
 

 14歳の子供が、ようやく芽生えた自我に基づいて、おれと、セックスしてみたい、って意思を示したんだ。
 それが認められないのかい?
 

 認められなきゃそれでいいけど、はっきり言っておれがいちばん興奮させられたのはそこだよ。

 おれはあの子の決断に興奮したんであって、年齢に興奮したんじゃない。


 ああ、はじめてのとき以来、週1回は一緒にホテルに行ったよ。
 そのたびに、やってやってやりまくったね。
 

 なんつっても、そういうことに対する好奇心が旺盛だからな。


 それまであの子の頭の中は、そういうことに関する妄想で満タンになってたんだろうな。
 別に時代のせいでもなんでもないぜ。
 

 これを読んでるあんた、あんたも14歳の頃、そうじゃなかったかい?


 『こうすると気持ち良かったりするんでしょ?
 

 って、まだあどけない少女に言われるとこを想像してみろよ。

 勃つだろ。


 『こうすると、すっごく硬くなるんだ・・・


 って、肩越しに、少女があんたを振り返るんだよ。
 潤んだ、ちょっと熱に浮かされたみたいな調子でな。


 勃つだろ。


 そりゃあまあ、おれも彼女の身体を思いのままに弄んで、身体のすみずみまで舐めまわして、いろんな姿勢をとらせて、いろんないかがわしいことをさせて、あんなことやこんなことまで言わせて、ありとあらゆる方法であの子をイタブリまわしたよ。


 もう、妄想のおもむくままに。


 でもな、あの子もおれと同じだったんだよ。

 自分の妄想を、おれとの行為で思う存分再現したんだよ。


 別にあの子が悪い、つってんじゃないぜ。
 お互い様だった、ってことだよ。




 なんか、おれに聞きたいことないか・・・・?

 あ、そこの最前列でがぶり寄って聞いてる、ブルーのネルシャツの君。
 いいぜ。何でも質問してくれ。

 ・・・何?あの子はおれのことを何て呼んでたってか?

 『先生』に決まってるだろ?

 実際、塾の先生とその教え子なんだからさ。
 なんだ、君。ちょっと鼻がヒクヒクしてるぜ。
 そんなに刺激的だったかな。



 ほかに質問はないか・・・?

 あ、その後ろから3列目の、うす汚れたジャージの君。
 
 あ、いや、お前じゃない。
 もっと汚いジャージを来た、長髪のデブのほうだよ。

 
 ・・・え?彼女はちゃんとイッたかって?


 ああ、おれが丹念にクリトリスを攻めたときはな。



 ほかに質問は・・・?

 はい、その前から2列目の、ドブネズミ色のパーカーの君。
 そう、そうだよ。そのパーカー。あ、黒なの?それ。
 それにしても洗いすぎで色落ちしてるぜ。まあいいや。


 ・・・ああ、こんなことをして、少しも反省してないんですか、ってか?

 少なくとも後悔はしてないね。



 おれは、言っちゃあなんだが、今の君らよりずっとハッピーだぜ。
 

 君らのうち、これから先の人生で、処女の14歳からセックスをせがまれるような幸運に恵まれるような奴はひとりもいないだろう。
 そう、おれと君たちの違い、それは別におれが君らより男前だからでも、おれのほうが人間的に優れているからでも、おれが口が上手いからでも、それからあの子が・・・・特にすけべえで淫乱だからでもない。

 
 まあ君らにしてみれば、そう考えていたほうが幸せなんだろうな。


 おれは単に、ツいてただけだよ
 

 そして、ツキに恵まれたときに、ビビって逃げ出さなかった。

 それがおれと、君らの違いだ。

 



 なんでおれが、世の中からこんなに憎まれなきゃなんないのか、理解に苦しむね。 
 あと、おれがファックしたあの子が、ここまでとやかく言われる理由もわからない。



 おれとあの子がセックスしたからって、君らがセックスに恵まれるチャンスを、すこしでもおれが損なったりしたかな?


 聖書にも書いてあるぜ。

 

 実際に姦淫を犯した者も、単に女を情欲をもって見ただけの者も、同罪だってな。


 じゃあみんな、なんでしないの?(嘲)


【完】

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 昨日、バイト先の先輩、林さんの家に行ったら、なぜか話をしているうちに、急に意識を失った。
 目が覚めると、あたしはベッドの上で寝ていた。

 何も着ていない。


 パンツとTシャツはベッドの上に、ブラジャーは床にほかの衣類と一緒に脱ぎ散らかされていた。 

 
 林さんはお風呂に入っているらしい。
 風呂場のほうから、林さんが鼻歌でを調子よく歌っているのが聞こえてくる。
 
 

 ああ、こりゃあ・・・やっぱり一服盛られたんだなあ、とあたしは思った。

 
 林さんには悪いうわさがあった。
 部屋に女の子を呼んでは、その飲み物に睡眠薬を混ぜて、意識を失ったところを『食う』のだという。
 

 そんな、犯罪者じゃないんだから。
 

 そう思っていたあたしが甘かったらしい。
 林さんは、とてもそんなことをするような人には見えない。
 明るいし、こざっぱりしていて、物知りで、人当たりがいい。
 それに女性にモテる。


 そんな感じだから、そういう暗いうわさも、単にモテる林さんへのやっかみで男性連中に広がっているんだとばかり思っていた。


 あたしにそのうわさを聞かせてくれたのは、社員の樋口さんだった。
 樋口さんはデブで若ハゲでキモいので、あたしにはそれが、まったくのやっかみにしか聞こえなかった。
 

 「林には、気をつけたほうがいいよ。あいつ、の部屋に行くと、睡眠薬盛られてヤられちゃうから」


 アホかこのおっさん。 
 
 そりゃ、あんたじゃねーのか。キモいんだよ。
 と、あたしは思っていた。

 
 しかし昨日はちょっと飲みすぎた。
 飲み会の帰り、林さんがちょっとコーヒーでも飲んでく?と誘ってくれたときは、ちょっとうれしかった。

 
 樋口さんから聞かされた噂が気にならないわけでもなかったけど、まあ、そうなったらそれでいいか、みたいに少々投げやりな気持ちもあった。
 
 
 でもまさか、本当に薬を盛られるとは。

 林さんがお風呂から上がってこないので、ベッドから起き上がってみる。
 妙にさわやかな気分だった。


 ずきん、と左の乳首が痛んだ。
 見下ろしてみると、乳首が少し赤くなってた。


 乳房にも、その下にも、キスマークらしいものがついている。
 

 そっと内腿に手を伸ばしてみると・・・何か、皮膚がかさかさしているみたいだった。
 

 それに・・・神経を集中すれば、まだ異物感が残っているような気がする。
 


 ヤられた。
 こりゃマジで、真剣にヤられた。


 あたしはのろのろと起き上がって、部屋の隅に置いてあった姿見の前に立って、自分のからだを鏡に映してみた。


 「ひええ・・・

 思わず間抜けな声が出た。

 首筋に、鎖骨のあたりに、おっぱいの周辺に、おなかに、水着線のあたりに、それに内腿にもたくさん・・・いたるところに、キスマークがついていた。


 まさか、と思って、鏡に背を向けて背中を見てみる。


 「さ、最低・・・」

 肩甲骨の間、腰、それにおしりの上にも・・・やっぱりキスマークがある。

 「ど、どんだけ吸われてんだ・・・ってか、どんなに吸うのが好きなんだ」


 かっと頭に血がのぼり、意識がさらにはっきりしてきた。
 怒りのせいなのか、恥ずかしさのせいなのかはわからない。
 多分、怒りが70、恥ずかしさが30というところだろうか。


 わたしはあわてて服をかき集めて、身に着けはじめた。
 こんな・・・こんな変態性欲者の家には、一分たりとも居ることはできない。


 「あ、起きたんだ・・・おっはよう!!!!


 顔を上げると、バスタオルを腰に巻いて、全身から湯気をあげている林さんが立っていた。
 屈託のない笑顔である。


 わたしはブラジャーとTシャツだけ着て下は全裸、という間抜けな格好だったが、林さんに詰め寄った。


 「あたしに何したのよ??・・・あたしに何飲ませたのよ!!!」
 「え、ちょっと待って。ひょっとして、ゆうべのこと、何にも覚えてなかったりするわけ?」

 林さんがニヤニヤと笑う。

 「あんた、あたしに何かヘンな薬飲ませたんでしょ!!!・・・で、意識を失ったあたしに・・・!!!」
 「意識を失ったって・・・え?失ってなかったけどな。覚えてないだけでしょ。・・・ってか、ほんとに覚えてないの??」
 「何も覚えてないわよ!!あんたのコーヒー飲んでると、いきなり意識がなくなって・・・・」
 「そこまでしか覚えてないだけでしょ。・・・・ってか、その後、飲み直したの、ホントに覚えてないの?・・・・君がウイスキーを生でぐいぐいやって、おれ、もうそのへんにしといたほうがいいんじゃない?・・・つったんだけど」
 「ウソつき!!!あんた、コーヒーになんか入れたんでしょ??そうなんでしょ?」
 「ああ、樋口さんが言ってるうわさでしょ、それ。おれ、そんな犯罪者じゃないよ」 
 「ともあれあたし、ケーサツに訴えるからね。これあんた、マジで犯罪だから」


 脅しではなく本気で言ったつもりだった。
 でも林さんはまだニヤニヤ笑っている。


 「・・・え、でも、君の方から先に服を脱いで、おれに抱きついてきたんだけどな。それも、当然覚えてないよね」
 「ウソつかないでよ!!!・・・あたし、彼氏いるんだからね!!!!」
 「それもゆうべ聞いてたから、『え、それはマズいんじゃないの』っておれ、ちゃんと言ったよ」
 「あんた、最初からあたしにこんなことするつもりだったんでしょ?・・・そのつもりで昨日、あたしを飲みに誘ったんでしょ?」
 「いや、それも違うぞ。君が『彼氏とうまいこと行ってないから相談がある』って、この部屋に来たい、つったんだよ」
 「ウソ!!!ウソ!!!そんなはずないでしょ!!テキトーなこと、言わないでよ!!!」
 「いやあ、そこで断るべきだったんだけどさあ、おれもそんなに悪い気がしなかったもんだから・・・・」


 林さんが濡れた頭を掻く。
 そしてまた、へへへ、と笑う。


 「ってか、こんなに全身にキスマークつけて・・・変態!!!どーしてくれんのよ!!彼になんつったらいいのよ!!」
 「でも、それだって君が『吸って!!跡が残るくらい吸って!!』って言うもんだからさ」

 
 ちょっと、冷や汗が出てきた。


 確かに・・・あたしはあの時にテンションが上がるとそんなことを彼氏にお願いすることがある。

 それに・・・最近彼氏とうまく行ってないのは事実だ


 「あんた、みんなにこんなことしてんでしょ。いろんな女の子騙しては、家に連れ込んで、睡眠薬盛って、いやらしい事してんでしょ!!」
 「睡眠薬なんか盛ってないって。ってか、それじゃあマジで犯罪者でしょ」
 「犯罪者じゃん!!!超のつく犯罪者だよあんた!!!!」
 「そこまで言うんだったらビデオに撮ってあるから、見てみる?」


 え。


 ビデオって


 「・・・・な、な、何?なんなのビデオって・・・・」
 「いや、撮りながらしてもいいか、って聞いたら、『何それマジ変態っぽくて楽しそう!』っていうから、撮らせてもらったんだけど」
 「ええええええ??????


 そう言うと林さんは腰にタオルのまま、部屋の隅にあったハンディカムを手に取った。
 あたしは下も履かないままに、林さんがビデオを操作するのを見上げていた。

 「ほら、すごいでしょ」
 「・・・そ、そんな

 差し出されたビデオカメラの液晶に映っていたのは・・・・全裸で、騎乗位の体制で、思いっきりおっぱいと髪を振り乱して、悶えまくっているあたしの姿だった。

 当然だが、アングルは下からアオリ、だ。


 『・・・・・す、す、すごいっっ!!・・・ど、ど、どーなっちゃうの、どーなっちゃうの???あっ・・・あっ・・・あたし、どーなっちゃうの???
 『・・・・うっ、うっ・・・・・撮られてると興奮する??』林さんの声だ。
 『・・・・ま、まじ、まじ、まじ・・・あっ・・・んんんっ・・・・ありえないほどコーフンする・・・』
 『・・・・うっ、うっ・・・こ、こんなとこ、こんなとこ彼氏が見たら・・・・どう思うだろうね?』
 『・・・・しっ、し、知らないっ・・・あんっ・・・あんな・・・あんな・・・』
 『・・・うっ・・・うっ・・・あんな・・・あんな・・・何?』
 『・・・・・あっ・・・うっ・・・ううんっ・・・・
 ・・・あんなチンカス野郎知らねーーーーーっての!!』


 

 あたしは言葉を失って、ただ画面を見つめていた。



 「ほらね」林さんが言った。「睡眠薬だなんて、樋口さんが言ってるだけだよ。あ、ビデオ単純に、はおれの趣味だから」
 「・・・・このビデオをネタに・・・・あたしをまた・・・」

 あたしは林さんを恨みがましく見上げた。

 「そんな、犯罪者じゃないんだから。何だったらこのテープ、あげるよ」
 「い・・・・いらないわよ!!!変態!!!」
 「じゃあ、おれ、持ってていいの?・・・あ、大丈夫。誰にも見せないから」
 「・・・・」


 あたしは黙って、ベッドの上で丸まっていたパンツを履いて、林さんとは極力目を合わせないようにし て、ジーンズに脚を通した。

 「・・・帰るの?・・・ケーサツに行くの?」

 からかうように、林さんが言った。

 「・・・死ね」

 あたしは鞄を取り上げて、足音も荒く・・・まだタオル一枚腰に巻いたままの林さんの脇をすり抜けた。
 通りすぎる瞬間、林さんがあたしの耳元で囁いた。


 「また、おいでよ。今度は記憶のはっきりしてるときに、もう一回しようよ
 「変態!!レイプ魔!!人でなし!!!

 
 鞄で林さんをめちゃくちゃに殴った。


 「・・・痛っ・・・ちょっと君・・・そんな、こりゃもう・・・痛いって・・・やめろよ・・・だから・・・ビデオ返すよ・・・悪かったよ・・・」


 腰のタオルがはらりと落ちて、林さんのしなびたあそこが丸出しになる。


 あたしはなぜか、ますます怒りを駆り立てられて・・・さらに強い力で林さんを殴り続けた。

 「・・・・そんな、やめろって・・・ゆうべはあんなに仲良くしてれたのに・・・・あっ・・・いてっ・・・・」



 絶対、絶対に何か盛られたはずだ。


 そう信じようとすればするほど、殴られながらもニヤニヤ笑ったままの林さんのことにますます腹が立って、わたしは鞄を振り下ろし続けた。


「・・・・いたっ・・・痛てえよ・・・許してってば・・・ねえ、ほら・・・機嫌直してよ・・・なあ、おれと付き合おうよ・・・な?」



 絶対に盛られた。盛られたに違いない。



 あたしは鞄を振り下ろすのをやめなかった。


【完】

テーマ:官能小説・エロ小説 - ジャンル:小説・文学

 犬を散歩させていた。
 その頃はそれくらいしかやることがなかった。


 とても天気がいい日だったので、普段は自宅から20メートル四方を離れることはないが、さすがにあそこまで天気がいいと、駅向こうの公園まで足を延ばしてみようかという気にもなる。


 犬のほうは、あんまり乗り気じゃないようだった。
 うちの犬は散歩があまり好きではない。散歩に出かけると、ほんの5分も待たずに家に帰りたがる。
 最近ではわたしのほうがこの犬に、散歩につきあってもらっているようなもんだった。


 うちの犬は和犬系の雑種で、まだらの肌をした、太った、醜い犬だった。
 醜いだけならまだしも、この犬には可愛げというものがまるで欠けている。
 めったに感情を露わにすることはなく、こいつが吠えたり、クンクン甘い声を出したり、ましてやわたしに甘えてくるなどということはこれまでに一度もない。


 どうやら犬はわたしのことを好いていないらしい。
 というか、わたしのことも含めて、世の中のすべてのことに関心がないのだ。
 その点はこの犬はわたし自身によく似ていた。



 だから特に可愛がっている、というわけではないが、ずっと一緒に暮らしている。



 さて、公園の風景はのどかそのものだった。


 空はどこまでも晴れ渡り、太陽はやさしい。ずいぶん緑の目立つようになった桜の木が風に揺れ、まるで全自然が『さあお前、そこらへんのベンチに腰かけて昼寝でもしろ』と、わたしを誘っているようにさえ見えた。


 そんなわけで、わたしはベンチに腰をおろし、ベンチの足に犬のリードを結わえると、くつろげる体勢をとった。
 そんな風に犬を縛りつけて眠るなんてひどいと思うかも知れないが、うちの犬は平気だ。

 
 じっとしてろ、といえば3日間でもそこでじっとしている。動くのが心底嫌いなのだ。
 それに、こんな不細工で汚い犬を盗むようなもの好きがいるはずもない。



 あっという間にわたしはうすい眠りにおちた。


 なんだかいやらしい夢を見たような気がする。
 夢のなかではよくあることだが、数か月前に出て行った女との関係が夢の中ではなぜか理由もなく解消していて、わたしと女は公園のベンチでお互いのそれぞれの性器を、服の上からまさぐりあっていた。


 
 どこかの本で読んだが、われわれ人間はこんなうたた寝のような状況において、入眠直前の風景の中で過ごしている状態を夢に見るらしい。


 夢と事実が違うのは、女がいないだけのことで、眼を醒ますとわたしはしっかり勃起していた。



 と、眼の前で・・・うちの犬が小さなポメラニアンの股間をくんくんと嗅いでいた


 ポメラニアンのリードをたぐるように視線を動かすと、それは小さな手につながっている。

 
 かなりの確率でそのポメラニアンのご主人と思われるその手は、11、2歳の少女のものだった。
 少女は無表情に、自分の犬の股間を、わたしの犬がクンクンと嗅ぐ様を眺めていた。


 ふわりと風が吹いて、少女の短く切りそろえた前髪が揺れた。


 「・・・・」

 わたしは何も言わなかった。少女も、何も言わなかった。
 ただ少女は、犬同士の発情行動に対して、非常に興味を惹かれている様子だった。


 わたしの犬は、執拗にポメラニアンの股間をくんくんと嗅ぎ続ける。


 ポメラニアンは、ときよりうちの犬の鼻先から逃れるように腰をくねらせるが、本気でうちの犬から逃れようとはしていない。
 お互いまんざらでもなく、焦らしあっている最中のようだ。


 「・・・・これって・・・」不意に、少女が呟いた。「・・・赤ちゃんを作ろうとしてるんですよね・・・?」
 「いや」わたしは言った「・・・それは、どうかな。ただ、気持ちよくなりたいだけだよ」


 そう言って、わたしはこんなふうに他人と口を効いたのが、実に3日ぶりであることに気がついた。


 「・・・でも、このまま放っておくと・・・この子たち、コウビをして、赤ちゃんを作るんでしょ?」
 「そう、コウビをする・・・そうそう、コウビをね。そうだよ」



 少女はショートパンツを履いていて、小枝のようにか細い太腿から脛を、露わにしていた。
 足には薄茶色のスニーカーを履いている。
 それにすっぽり隠れるような小さなスニーカーソックスは、彼女の踝までむき出しにしていた。
 彼女の膝小僧は、浅蜊のように小さかった。


 その小さな膝小僧が、居心地悪そうに擦れ合っている。


 「うちの犬は、その・・・この犬が・・・好きなのかな」少女が首を傾げた「今、遭ったばっかりなのに」
 「・・・・どうだろうね。ふしだらな犬だね」わたしは言った「ほんとにメス犬だ」
 「ふしだら?
 「・・・いや、いい。忘れてくれ。ちょっと口が滑った」
 「うちの犬は、ふしだらじゃないですよ。他の犬とは、こんなふうにならないもの」
 「じゃあ・・・一目ぼれしたのかな。まあ、よくあることじゃないかな。大人になればわかるよ」
 「・・・一目ぼれして、コウビしちゃうもんなんですか?」また少女が首を傾げる「じゃあ、うちの犬は、いま、この瞬間は・・・この犬のことが好きなのかな」
 「そうかも知れないね」
 「でも、コウビが終われば、どうなるんだろう。・・・・それでも、うちの犬は、この犬のことをまだ好きなのかな」
 「そうじゃないかも知れないね」
 「・・・コウビって、気持ちいいのかな


 わたしは考えた。
 どうなのだろうか。
 犬たちは交尾で、われわれ人間のように、快感を貪りあっているのだろうか。


 うちの犬は、まだポメラニアンの股間を嗅いで、焦らし続けている。
 ポメラニアンのほうは・・・まだうちの犬を焦らすつもりらしいが、その形ばかりの抵抗もずいぶんおざなりになっているようだ。


 「・・・いや、本能だよ。本能。本能だから、好きとか、そういう問題じゃないのかもしれないね」
 

 わたしは適当なことを言った。


 「・・・楽しくないんですか。コウビって」少女が犬たちの様子を凝視しながら言う「じゃあ、なんでこの子たち、こんなに嬉しそうなのかな」
 「別に、好き同士でなくっても、単純に交尾するのは楽しいんだよ」
 「え、そうなんですか?」
 「ああ、たぶん」わたしは、確信などまるでなく頷いた。
 「好き同士でなくても、コウビはできるんですね」
 「・・・あ、ほら、始まるよ」


 うちの犬が、のっそりと半身を起こし、前足でポメラニアンの腰をとらえた
 ポメラニアンは、前足を伏せ、後ろ脚をつっぱらせて、腰を突き出して・・・・おねだりをするように全身をくねらせている。
 
 ぐいっ、とうちの犬が腰を突き出す。


  「あっ・・・・」少女が薄い唇を開けて、小さな咳のような声を出した。

 
 ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい

 「・・・ほら、どうだい。2匹とも、楽しそうだろう。これが、本能だよ」
 「・・・うちの犬、痛がってませんか?」少女が心配そうに囁く「・・・痛くないんですか?・・・コウビって
 「・・・大丈夫だよ。うちの犬はやさしいから。・・・ほら、やさしく腰を使ってるだろ?」



 ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい、ぐい



 「・・・・そうは見えないんですけど。なんか・・・うちの犬、いじめられてるみたい」
 「いや、そんなことはないよ。ごらん」わたしはポメラニアンの顔を指差した「・・・ほら、気持ち良さそうだろ?・・・君の犬は、ちっともいじめられてるなんて思っちゃいない。・・・もっと、もっとって、腰を振ってるだろ?もしいじめられてるとするなら、君の犬はあんなふうに大人しくしてるかい?・・・ほら、ごらん、自分で腰を突き出して、もっとしてほしそうに動かしてるだろ?」
 「・・・そ、そうですね・・・」
 「・・・これが、本能だよ。これが、自然だよ。そしてこれが・・・・」
 「これが・・・?・・・あ、終わった」


 うちの犬がポメラニアンから離れる。
 ポメラニアンはぐったりもせず、少女の脛のあたりに駆け寄ってじゃれつきはじめた。
 うちの犬も当然、ピロートークをしたり煙草を吹かせたりもせず、そのままのっそりとわたしの足もとまで戻り・・・伏せた。


 「・・・これが・・・何ですか?」
 「・・・いや、何でもない。忘れてくれ」


 しばらく少女は、足元でじゃれつくポメラニアンをそのままに、わたしの顔をじっと見ていた。


 「・・・もう行きます。じゃあこれで」
 「ああ、気をつけて」


 少女はポメラニアンを引っ張って、公園の出口の方向へ歩き出した。
 ポメラニアンは少女の足のまわりを駆け回りながら、一緒に去って行った。


 うちの犬を一度も振り返りもしなかった。


 少女もわたしを振り返ることはなかった。
 

 うちの犬は、わたしの足もとで、伏せたまま、じっとしている。

 
 「良かったか?」

 わたしは犬に聞いた。
 犬はわたしを見上げもしなかった。

 「まったく、どんな相手にも股を開くとんでもねえメス犬だったぜ・・・・なあ?」

 犬は伏せたままだった。

 ふわりと風が吹いた。
 

 言うまでもないが、わたしはまだ勃起していた。


 【完】

テーマ:官能小説・エロ小説 - ジャンル:小説・文学

 うちの姉はエロい。
 弟の僕が言うのだからほんとうだ。


 姉に対してそのような感情を持つのはまともではないと判っている。


 姉には特定の彼氏はいない。弟の僕がそんなことを言うのもなんだけど、姉はすごくふしだらな女だ。
 電話一本でどんな男に呼び出されても出かけていってヤらせる女。


 それが姉だ。


 さっきも隣の姉の部屋から、携帯の呼び出し音がするやいなや、


 「え?今から?行く!!行く!!!・・・どこ?あ、駅前の公園??20分で行く!!」


 続いて、あわてて身支度する物音。
 また、どこの馬の骨とも知らない、ろくでもない、姉を単なる公衆便所としてしかみていない男が、姉を呼び出したのだ。
 

 今は深夜1時。
 僕は受験勉強をしていた。
 点けていたラジオの音も、目の前のノートと参考書の文字も、明日のテストのことも、すべてがどうでもよくなってしまった。
 何もかもがこんがらがって、ぶつかり、こすれあって、頭の中でいやな音を立てた。


 姉は22歳、僕は15歳だった。


 姉が部屋から飛び出していく。
 もはや両親は姉には何も言わない。
 

 大学を卒業して以来、就職もろくにせずに、男に呼び出されては、喜び勇んで出て行く姉。
 

 『あのど淫乱のすけべえ女が』


 僕は心の中で毒づいて、舌打ちをしてから、いすの背もたれに全体重をかけて大きく伸びをした。
 バタン、と玄関のドアを閉める音がする。姉が出て行ったのだ。
 

 姉は中学・高校と陸上部だったので、すごく脚が早い。
 しなやかな肉体、屈託のない笑顔。
 昔の姉はあんなふうじゃなかった。素直で、陸上にしか興味のない体育会系の女子生徒だった。
 

 いったい、何が姉をあんなふうにしてしまったのだろうか。
 やはり大学の4年間が悪かったのか。

 
 姉は大学時代から、やたらと男好きになった。
 たぶん・・・姉は大学に入るまでは処女だったんじゃないだろうか。

 
 絶対そうだ。


 大学が姉を変えてしまった。あんなふしだらで、誰に対しても気軽にサセる、都合のいい女に作り変えてしまったのだ。


 いったい、大学ではどんなことが行われているのだろうか?


 誰もが、あんなふうに、女をコマしたり、女のほうも喜んでコマされたり。
 そんなことが毎日繰り広げられているのか。


 僕は姉が通った、高校から大学までエスカレータ式に進学することのできる高校を目指して、今、受験勉強に励んでいる。
 

 当然だけど、勉強など何の意味もないようにさえ思えてきた。


 確かに、セックスはしてみたい。でも、それはまだ、ずっとずっと先のことだ。
 成人式や、就職や、結婚みたいに。あるいは、この世の終わりみたいに。
 5年先のことだろうと、10年先のことだろうと、1年以上先のことはすべて、『ずっと遠い未来のこと』に一緒くたにカテゴライズされて、頭のすみっこのほうでぼんやりと漂っている。

 
 どうでもいいことなのだ。


 それよりずっと気になるのは、姉が、これからいったい、男と、どんなことをするのか、ということだ。

 

 いつからだったろうか。



 こんな風に姉が夜中に男に呼び出されるたびに・・・異常な亢奮がこみあげてきて・・・オナニーにふけってしまうようになったのは。

 最初、僕はそんなことをしたがる自分が信じられなかった。

 しかし、どんなに頭から追い出そうとしても、どこか知らない薄暗い部屋で、全裸に剥かれた姉の身体が、見知らぬ男の脂ぎった手によっていいように弄ばれている様が鮮明な画像となって浮かび上がってくる。



 姉ちゃん、もうこんなことはやめてくれよ。

 おれ、弟として恥ずかしいよ。



 そう思いながらどこまでも熱くなって、固くなって、ぬめりを増していく自分の性器を握り締める。
 まるで、姉をこらしめるように、恥ずかしい、ふしだらな姉を戒めるように、自分の性器を乱暴に、激しくこする。


 そうして最終的に得られる射精感は、まるで生まれ変わりの瞬間みたいに鮮烈だった。
 

 その後、この世の終わりのような深い罪悪感と後悔が襲ってくる。
 それがわかっても、僕はそんな罪悪を繰り返した。



 しかし、その晩は違った。
 どうしても、オナニーだけでは収まらなかった。


 僕は椅子から立ち上がると、ちょっと黒めのパーカーを着て、こっそりと部屋を抜け出した。


 
 駅前の公園までは、全速力で走った。
 ついたときには、もう息が上がっていた。
 姉の姿がもうそこにはないこともわかっていた。
 

 しかしそれでも、公園まで来て見なくてはすまなかった。


 深夜の公園に人影はない。

 誰も遊ぶものがいないジャングルジムや、ブランコや、滑り台が、いつものように闇の中に溶けて、おとなしくしている。
 まるで、そいつらに慰められているような気がした。


 そのせいか、ひどく走ったせいか、姉への複雑な思いのせいか、僕は吐きたくなった。
 公衆便所には、深夜でも明かりが灯っている。

 
 口を両手で押さえながら、便所まで走った。



 と、入り口に差し掛かったときに・・・障害者用のトイレから、聞き覚えのある声がした。


 「・・・・あっ、うっ・・・そこ・・・・っ・・・そこもっと・・・・」


 一気に吐き気が引いていった。
 姉の声だった。


 「・・・・だめ、それ、それ、ヤバい・・・バカ、すけべ」
 「バカはお前だろーがよ、このメス豚
 
 パーン!!
 ・・・・何かを叩く音。
 
 「・・・・んんっ・・・くうっっ」
 「もっと腰ふれよ、おら、おら、いいんだろ?いいかって聞いてんだよこの変態女!!

 パンーン、パーン、パーン!!!!

 「あっ、あっ、ああんっっ!!」
 「ホテルより便所のほうが感じるなんて、とんでもねー変態だぜてめえはよ!!おら!おら!おら!」

 パンーン、パーン、パーン、パーン、パーン!!!!

 「・・・・ああんっ!!!お、おかしく、おかしくなっちゃうよう!!もっと!!もっと!!!」
 「便所女!!便所女!!

  パンーン、パーン、パーン、パーン、パーン!!!!

  
  いつの間にか僕は、トイレのドアの前で、ジャージのズボンに手を突っ込んでいた。
  ズボンの中でこれ以上にないくらいまで硬くなった性器を、必死でいましめていた。
  今、便所の中で便所女と呼ばれながら尻を叩かれている姉を、いましめる代わりに。



 「・・・・んんんっ・・・・ヤバい、ヤバい、もう、ヤバい、いっちゃう、い、いくっ!!!」

 パーーーーーーーーーーーン!!

 「・・・・・・・ああっ、あ、あ、あ、あ・・・・・・・かはっ・・・・」




 気がつけばズボンの中で射精していた。
 荒い息とともに、僕はふらふらと便所を後にし、近くの茂みに身を隠した。

 
 パンツの中は、僕の頭の中と同じで、ねばつき、絡み合い、ぐちゃぐちゃになって・・・今やそれがジャージの生地にまで、染み出している
  

 茂みの中で、冷えていく股間の粘りの不快感に耐えていると・・・・しばらくして、身障者用トイレのドアが開き、姉が・・・・いかにも頭の悪そうな、ヒッポホップ系なのかヤンキー系なのか釈然としない男と、クスクス笑いながら出てきた。



 僕はそのまま息をひそめて・・・二人がいちゃいちゃと寄り添いながら公園を後にするのを見送った。


  どこに行くのだろう?
 どこかの、別の公衆トイレだろうか?


 と、背後から突然声がした。

 「・・・・便所の中で尻叩かれながらイくとは、最低やな、あの女

 はっとして振り返る。


 ジャージを着た、太った丸刈りの男の顔が、僕の真後ろにあった。
 男も僕と同じように・・・茂みの中で這い蹲るようにして身をひそめていたのだ。


 「・・・・ボク、なんやええ匂いさせてるな。イッってもうたんか?」


 男が鼻をひくひくさせて、笑う。そのにきびだらけの醜い顔が、好色そうに歪む。


 「可愛い子やな・・・・どうや、おっちゃんと一緒にあのトイレに、入って、2発目いってみいひんか?」


 僕は、茂みから飛び出すと、一目散に走り出した。

 
 そのまま、ずっと、ずっと走り続けた。
 とりあえず、家には帰らない。どこか、ここから遠くへ離れるんだ。
 それに・・・朝まで走れば、汚れたズボンも乾くかもしれない。


 いつの間にか、頬に涙が流れていた。

 

 でも走り続けた。


 【完】

テーマ:官能小説・エロ小説 - ジャンル:小説・文学

ついったー

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Author:西田・フォン・三郎
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